育ちゆく命見守る 難病の子どもたちを在宅で 東京・緑が丘訪問看護ST
在宅医療は民医連の得意分野のひとつです。東京・武蔵村山市の緑が丘訪問看護ステーションは、人工呼吸器をつけた双子の兄弟の訪 問看護を4年前から行っています。小児の訪問は初めてでしたが、スタッフ全員で研修を重ね、ケアしています。「成長を隣で見守る喜びがある」。同ステー ションを訪ねました。(丸山聡子記者)
双子のA君、B君の訪問は週二回、一回二時間。民医連外の別のステーションと一緒に訪問 し、痰の吸引や体位交換、入浴、発達に応じた遊びなどをします。五歳の二人は、覚え始めた手話を使っておもちゃをねだったり、タオルを投げてスタッフの気 を引いたり…。お風呂では、手が届くところは自分で洗います。湯船につかると、気持ちよさそうにニッコリしました。
小児は「経験ゼロ」だけど
双子の病気は、全身の筋力が低下する先天性ミオパチーという難病です。生後すぐに人工呼吸器管理となり、気管切開、経管栄養です。一歳六カ月で在宅生活をスタート。退院を前に、同ステーションに依頼がありました。
当時、スタッフに小児のケアや重度心身障害者(児)の経験はゼロ。長時間(二~三時間)となる訪問の体制が組めるのか…。多くの不安がありましたが、初 めて子どもたちに会った時、「引き受けよう」と決めました。野村洋子さん(看護師)は、「暗いイメージはなく、明るくてとてもかわいかった」と、初対面の 印象を振り返ります。齋藤勢子所長も同じ気持ちでした。
お母さんの望みは「自宅で子どもたちと生活したい。いっしょにケアをしてほしい」というシンプルなことでした。しかし、小児の訪問を引き受けるステー ションはなかなかありません。そうした苦労も知り、「家族が望むケアをするため、必要な専門性を身につけよう」と研修を重ね、準備をすすめました(下項参照)。
退院当初、双子は急変で入院することも多く、処置の仕方を継続して習得したり、モチベーションを維持するのが困難でした。そこでケアの手順や方法を整理 し、対応マニュアルを作成。研修受講後はステーション内で学習会をして共有し、スタッフ全員が緊急時に対応できるようにしました。
「困難ケースを引き受けるには、スタッフ全員が同じ方向を向いていることが大事。より安全なケアの方法を出し合うなど、工夫もしています。職場がより前 向きな雰囲気になりました」と齋藤所長。現在はさらに二件、小児の訪問をしています。
小児の訪問のため行った研修*在宅難病患者訪問看護師養成研修 |
地域での連携がカギ
連携している事業所など在宅主治医 |
子どもたちの在宅生活は、複数の事業所のネットワークがささえています(右欄参照)。小児の在宅医療に熱心な開業医が主治医で、重度障害児を専門にしている訪問看護ステーションも中心的役割を果たしています。調整の場は、保健師や市役所担当者などが加わった総勢二〇人超で定期的に行うカンファレンスです。
齋藤所長は、「日常的に情報を共有し、実際の訪問でも技術を教えてもらえるので、安心して訪問にあたれます。地域連携は必須ですが、それが困難な場合も多く、小児と家族への支援はまだまだ乏しい」と指摘します。
足りない支援制度
民間の調査で、超重症児は全国で三万八〇〇〇人いると推定され、うち半数近くが在宅で生活していると見られます。厚生労働省は、重症児の実態を把握していません。ケアに追われる家族が問題を発信することは困難です。
A君、B君の場合も、通院通園時の送迎制度はほとんどなく、祖父母に頼っています。一日に五〇~七〇回の吸引や体位交換を担っているお母さんはへとへ と。「送迎や家事の援助があれば」と言います。一カ月一〇日前後のレスパイトを利用しますが、双子を一緒に預かるところがありません。子どもたちを別々の 施設に預け、痰吸引のために二カ所に面会に行くこともしばしばあると言います。災害時にどうするかも、課題となったまま答えが見出せません。
昨年、A君、B君はそろって五歳の七五三のお祝いをしました。黒と白のお揃いのスーツを着て、写真館で撮影しました。「同様の病状では、三歳までの生育記録しかない」と告げられていた両親にとって、嬉しい記念となりました。
「成長の喜びに立ち会えるのは小児のケアならでは。次の目標は小学校入学です。地域連携で、二人の発達に合ったケアをしつつ、隣で成長を見守っていきたい」と野村さんは話します。
(民医連新聞 第1521号 2012年4月2日)