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民医連新聞

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第40回総会特集 藤末衛会長あいさつ 福祉国家創る構えで共同の「架け橋」に

二月二三~二五日に開かれた全日本民医連第四〇回定期総会を特集します。

 四〇回定期総会にご参加のみなさん。
 人間裁判・朝日訴訟がたたかわれた岡山の地で三日間、権利としての社会保障と平和を求める二年間の方針を討議・決定します。総会準備と設営にご協力いた だいている岡山民医連のみなさんに感謝するとともに、最後までのご協力をお願いします。
 この二年間に六一人の民医連職員がお亡くなりになりました。この中には、東日本大震災で亡くなられた宮城民医連の四人が含まれております。亡くなられた すべての民医連の仲間、そして東日本大震災で犠牲となられたみなさまに心から哀悼の意を表します。

 代議員のみなさん、そして全国の仲間のみなさん。東日本大震災より一年近くが経過しまし た。二万人近い犠牲者を出し、今なお数十万人が避難生活や移住を余儀なくされ、被災地では懸命の復旧活動や除染作業が続いています。あらためて、民医連の 震災支援活動にご協力いただいたすべての団体・個人のみなさんに感謝いたします。
 また、自ら被災しながらも地震発生直後から被災者に寄り添い奮闘した民医連職員と共同組織のみなさん、厳しい体制の中でも我がこととして被災地に赴いた スタッフ、後をささえたみなさん、そして三月一一日、突然全国の災害対策本部に変身した全日本民医連本部事務局のみなさんの労をねぎらいたいと思います。 加えて、震災前に決まっていた利根中央病院支援との両立も果たしていただきました。ほんとうにご苦労様でした。

 この大震災と原発事故災害とは何だったのか、なぜこれほどの被害が生じたのか、問題点を歴史的、社会的にも明確にし、教訓を汲みつくすことが肝心だと思います。このことを抜きにして今総会で時代に正面から向き合う方針を確立することはできません。
 地震と津波は天災であっても、防災の不備や救援活動の遅れ、復旧・復興方針の歪みと遅れは人災です。津波では命をつないだものの、過酷な避難生活の中で 亡くなった震災関連死の認定数は、昨年一二月段階で阪神淡路大震災を超えています。福島原発事故は、いうまでもなく、徹頭徹尾、人災でした。天災とそれに 引き続く被害の中で、人災の領域を明確にして、その原因と責任の所在を究明することが来るべき大災害への最大の備えであり、憲法二五条が生きる日本社会へ の展望を切り開く土台となるものです。
 全日本民医連理事会は、この震災と原発事故が魂なき経済発展の追求、行き詰まった新自由主義的「構造改革」の果てに起こり被害を拡大した、という自覚こ そ、人と環境にやさしい持続可能な経済と権利としての社会保障を実現すること、福祉の国づくりへ向かうための一歩と考えます。
 大震災と原発事故災害に対する民医連の救援活動のまとめは、第三回評議員会と総会議案第一章二節にあります。綱領にある「共同のいとなみ」の視点がいか んなく発揮されたことは、稲光宏子さんの『被災者に寄りそう医療』にその一端が描写されています。現地に入るたびに私が思ったことは、「刻々と変わる状況 に機敏に対応するために民医連空白の被災地に民医連の事業所があれば」ということでした。名護市に「やんばる協同クリニック」ができたように、ぜひこの点 も視野に入れた震災支援を今後も続けてゆきましょう。
 また原発事故災害では、長年の被爆者医療や原爆症認定集団訴訟支援の経験が生かされ、住民の不安や疑問に応え、ささえる活動がすすめられました。放射性 物質による健康被害の可能性については、過去に証明された限りある証拠だけにとらわれずに未知の脅威に立ち向かう視点を持ち、水俣病とそのたたかい、アス ベスト問題などの歴史が示す予防原則をふまえた長期の対応と福島県民医連の仲間への支援をすすめてゆきます。
 この二年間の時代認識を「閉塞感の広がりとせめぎ合い」としました。二〇〇九年九月、国民の選択による政権交代以降、震災をはさんで今日までの二年半の 政治的体験が国民の中にどのような変化をもたらしたのか、私たちの認識を一致させておくことが今後の運動のスタンスと方向を決める上で重要です。
 「国民生活第一」の政治変革を期待されて登場した民主党政権は、震災対策で機能不全に陥るばかりでなく、社会保障と税の一体改悪・原発の再稼働と輸出・ TPPへの参加・沖縄での新たな米軍基地建設など、財界とアメリカのための政治に回帰し、そのスピードを加速しています。「民主党に裏切られた」と感じる 多くの国民の中には、政治不信といきどおりが交錯しています。
 「民主党もだめなのか」という行き場のない幻滅が、問題を単純化して、見えやすい「敵」を設定して攻撃することで自らの役割を誇示する橋下大阪市長に代 表される地方劇場型政治の支持へとつながる事態も生んでいます。
 連日の大手メディアによる消費税増税推進、TPP推進、辺野古やむなしの意図的な報道に世論が影響される状況もあります。
 一方で、ごまかしようのない矛盾が明らかになるに従い、国民それぞれが切実に感じた課題には積極的に参加し、行動する機運も生まれています。脱原発を求 める集会の連続的な成功や新年早々たたかわれた三つの自治体首長選挙にもその一端が現われています。
 また、政権交代前は与党を通じて要求実現めざしていた団体・組織の多くが各政党との距離を課題ごとに是々非々でとる、いわば全方位対応を志向され、課題 によっては政権与党と全面対決する場面も出てきました。国民要求をトッピングのように実現しようとしても、福祉国家的な全体構想、理念なしの政権では迷走 し、挫折するということが証明された二年半、息を吹き返した新自由主義構造改革勢力とのせめぎ合いの二年半ではなかったでしょうか。
 これらをふまえて、総会議案は住民本位の震災復興も、平和と権利としての社会保障の実現についても新しい福祉国家への展望を創るという構えなしには実現 しないこと、日本の将来を決める課題が目白押しの時に巨大な国民的共同を広げることが大切であり、民医連はそのための「架け橋」となろうと提起していま す。

 さて、今後の二年間、いかに保健・医療・介護の活動をすすめてゆくのか。前総会で提起した 貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう医療と介護、医師養成との一体的発展という基本は変えず、さらに深め発展させる二年間とすることを提起しています。そ の中で、前総会で理念的に記述した健康権を一歩すすめて実践課題として提起していることに注目していただきたいと思います。
 グローバリズム、新自由主義的な構造改革の嵐が世界中で吹き荒れ、経済格差が健康格差につながり、低所得者の保健医療システムからの排除を生みだし、結 果として生存を否定される事例が増えています。健康権保障の視点と実践は、この新自由主義的な構造改革に対抗するものですが、世界の常識、日本の非常識と なっています。その理由は、労働市場規制と社会保障制度に弱点をもち、急速に高齢化がすすむ日本で構造改革の影響が大きいにもかかわらず、政府が健康に関 わる政策に自己責任論をもちこみ、世界の健康権保障の流れを無視してきたからです。
 議案の用語解説にも示しているように、WHOは、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約第一二条である健康権の具体的普遍的基準として General Comment 14を二〇〇〇年に発表し、各国にその実践を勧告しています。この間提起しているHPH(ヘルスプロモーティングホスピ タル)は、その実践の有力な方法です。日本の社会保障充実を求める勢力が憲法二五条、生存権をかかげてたたかってきた歴史に確信をもち、WHOのいう健康 権の実践を重ねることで今後の民医連の医療介護実践と運動を豊かにしたいと考えます。大いに議論をお願いします。

 最後に、民医連の医師養成についてひとこと触れます。本日今の時間、「アンダー三〇〇〇」 問題で厚労省臨床研修部会が非公開で開催されています。日本の医師臨床研修から中小病院を排除する動きに正当性のないことを民医連の長年の実践と運動が証 明しつつあります。震災では、地域のプライマリケア体制充実の重要性が改めて確認され、そのための医師養成をすすめる民医連が医学生の中で注目される時が 今です。多いに確信をもってすすみましょう。
 三日間の白熱した議論を期待し、理事会あいさつといたします。

(民医連新聞 第1520号 2012年3月19日)