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民医連新聞

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2年前から我慢を続け… 大腸がんのタクシー運転手 助かったはずの67人の“いのち” 全日本民医連 2011年手遅れ死亡調査

 全日本民医連は二月二〇日、二〇一一年の「国保など死亡事例調査報告」を発表しました。経済的理由で受診が遅れ、亡くなったのは六七人。一〇年より四人減りましたが、〇九年より二〇人多く、犠牲者の増加傾向は変わりません。(新井健治記者)

 助かったはずの六七人の“いのち”。この中の一人、六一歳のAさんは正規の保険証(協会け んぽ)を持ちながら、受診が遅れて亡くなりました。Aさんが入院中につけていた日記です。「すぎた日々は二度と戻らない…私の人生は今まで何もない。悲し くもあり、バカな人生を送って来たと反省する事ばかりだった」―。
 Aさんは北九州市の独身男性。三〇年、タクシー運転手をしながら、アパートで一人暮らしでした。二年前から黒色便など症状がありましたが、収入が不安定なため受診を我慢していたと言います。
 その後も下痢、血便など症状が治まらず、食事もとれなくなったことから、昨年六月に健和会大手町病院を受診。大腸がんと診断され、肝転移も見つかり、即 入院となりました。入院一カ月後に「ご本人が医療費を心配している」と病棟看護師から連絡があり、同院SWの森川尚子さんが相談に乗りました。
 森川さんはAさんが傷病手当を受けられるよう手続きしましたが、支給額が低く、医療費や家賃が支払えないため生活保護を申請。生活保護開始までは、無料低額診療事業で入院治療しました。

ワーキングプアが招いた死

 Aさんは入院後、小さなノートに日記をつけ始めました。多くは食事内容やその日の体調でしたが、人生を振り返ったり、仏像を描くことも。一時的に症状が落ち着いたものの退院はできず、初診から半年足らずで亡くなりました。
 Aさんには姉妹がいました。妹と連絡はとっていましたが、入院中に見舞いはありませんでした。姉妹はAさんが亡くなってから、遺体を引き取りに現れまし た。姉は「弟が安らかな最期を迎えられたのは、病院職員の方々のおかげ。大手町病院で本当に良かった」と感謝していたといいます。
 森川さんは「Aさんの年齢なら、早期に治療して命を落とすこともなく社会復帰できたはず。現役労働者ながら、経済的な理由で受診が遅れたのは、ワーキン グプアのせい。社会問題ですね」と話します。日記の最後には、こう記されています。「皆に幸せをあげられる人間でありたかった」―。

機能しない国民皆保険

 全日本民医連は記者会見で調査結果を発表。NHKや全国紙などが深刻な実態を報道しました。
 調査によると、死亡事例は二二県連から六七人。このうち四二人が国保料(税)の滞納で正規の保険証を取り上げられ、病状が悪化した非正規保険証群(無保 険、短期保険証、資格証明書)でした。制度上は存在しないはずの無保険者が二五人おり、国民皆保険が機能していません。
 また、正規の保険証を持ちながら、重い窓口負担など経済的理由で受診が遅れた人は二五人。全体の七二%が五〇~六〇代の中高年男性で、過酷な労働環境や “無縁社会”の影響が事例からうかがえます。死因の五五%は悪性新生物ですが、早期に治療すれば助かったはずの肺結核が二人いたのも特徴です。
 調査は六回目で、増加の一途だった犠牲者数が、今回初めて減少しました。全日本民医連は「無料低額診療事業拡大の影響も考えられる」と分析。民医連の無 低診事業所数は、二〇〇七年の六〇カ所から一一年の二五八カ所に増えており、受診抑制に一定の歯止めをかけています。

誰もが払える国保料に

 厚労省は「国保料の滞納世帯率が改善された」と喧伝していますが、その裏には短期保険証、資格証明書など制裁率の上昇があります。滞納世帯に占める短期保険証、資格証明書の割合は、〇三年の二六・五%から増え続け、一一年は三七・四%になりました。
 滞納世帯に対する人権無視、機械的な財産の差し押さえも目立ちます()。差し押さえ世帯数は〇六年九・五万世帯が一〇年一八・七万世帯に、金額も三九〇億円から七三二億円とほぼ倍増です。
 制裁や差し押さえで、ただでさえ医療費が心配な経済的弱者の受診抑制に拍車がかかり、手遅れ死亡が増えています。民医連の患者数における全国シェアは 一・二%で、推計すると国内で五五〇〇人を超える犠牲者がいてもおかしくありません。調査結果は氷山の一角です。
 一方で政府は国保広域化を狙い、その地ならしとして「高すぎて払えない」国保料のさらなる値上げを計画する自治体も少なくありません。民医連も加盟する各地の社保協が、自治体に値下げを要請しています。
 全日本民医連は緊急要求として、無保険者の実態調査や制裁措置の中止、窓口負担の軽減、国保料値下げ、「社会保障・税一体改革」の撤回を訴えました。

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(民医連新聞 第1519号 2012年3月5日)