激増する「就活自殺」その背景には ~関西大学・森岡孝二教授に聞く~
三月は自殺防止月間。日本は年間の自殺者が一四年連続で三万人超という国になっています。その中で近年、就職に失敗して自殺する 「就活自殺」が増えています。ある調査では、就活中の学生の七人に一人がうつ状態になる、と言われています。背景には過酷な就活の実態がありました。『就 職とは何か』(岩波新書)の著者である関西大学の森岡孝二教授に聞きました。(矢作史考記者)
就活自殺は、警察庁の統計によると、二〇〇九年度から二〇一〇年度にかけて、二倍になりました(図1)。「就活うつ」という言葉は前からありました。就活自殺の原因には、今の学生が少子化などで大事に育てられ、打たれ弱くなっていることもあると言われていますが、自殺にまで至る背景には、就職活動の厳しさがあります。
問題が深刻になっても、公にはなりません。被害者は分かっても加害者が特定できないためです。
厳しすぎる就職戦線
企業は正社員を減らしながら、人材獲得競争を行ってきました。〇八年のリーマンショック以 降、採用はさらに厳しさを増しています。文部科学省の調査では、今年三月に卒業予定の大学生の内定率は昨年一二月一日時点で七一・九%。過去二番目に低い 数字です。就職留年する学生も珍しくありません。
三年生の秋くらいから一年以上就職活動をしても、約三割の学生は未定です。彼らは、「失業予定者」です。
現在の若年者の非正社員比率をご存知でしょうか。厚労省の調査では、一五~一九歳では男性でも九一・六%という恐ろしい数字です(表1)。それだけパート・アルバイトの比率が高いということです。高卒ではあまりにも不利なため、大学進学率も上昇し、大学側も就職に重点を置くようになりました。
日本の大学生の就活は、三年生から始まります。「就職支援サイト」に登録し、一〇〇~二〇〇社に資料請求して、そこから五〇~六〇社にエントリーシート を提出します。この過程でかなりふるいにかけられ、面接にたどりついても、採用されるのは極めて限られた人数です(図2)。
非正規は「劣った人」?!
就職活動で学生たちは、今までに経験したことのないプレッシャーを受けます。おまけに企業からは「圧迫面接」と呼ばれるような威圧的な質問をしばしばされ、学生は消耗します。
また、学生同士で競争意識が広がり、個々が孤立していく傾向にあります。「自分が嫌な人間になっている気がする」と話す学生もいます。自分を肯定することさえできなくなるのです。
就活自殺は男子に多いですが、それは男性中心社会の「規範」の影響をうけていると見られます。「正社員になれない」ということは、男性でも女性でも、社 会的評価に直結します。不安定な立場の非正規社員は、「将来がない劣った雇用身分の人」という見方がされます。
正社員に内定が決まった学生もなかなか安心できません。内定先がブラック企業かもしれません。「他に良い企業があるのでは」と「内定ブルー」になることもあります。
企業は正規をとらない一方で、一人の正社員には何人分もの働きを求めます。
今の労働者が弱い立場におかれ、過重労働を強いられても、会社にしがみつかざるをえず、精神疾患を発症したり、過労死するほど働いている。これが就活にも影響しているのです。
また、今の日本には「失業する自由」さえないことも学生を追いつめる大きな要因です。失業給付や生活保護が受けにくいなど生活保障がないからです。生活 保障がしっかりある欧州では、自分のやりたい仕事を見つけるための時間が確保されています。
就活自殺を防ぐには
就活自殺の特効薬は、労働者の過重労働をなくし、雇用を増やすことです。日本企業で常態化しているサービス残業をなくせば、四〇〇万人の雇用創出ができるという試算もあります。雇用を増やせば学生の働き先も増え、選択肢が広がり、就活も改善されます。
前回の民医連新聞でも紹介されていた、過重労働をなくすための「過労死防止基本法」の制定は、就活自殺を防ぐためにも大事なのです。
(民医連新聞 第1519号 2012年3月5日)
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