フォーカス 私たちの実践 災害時の母子への支援 宮城・坂総合病院産婦人科 震災前後に出産した母たちへの安否確認で見えてきた課題
宮城・坂総合病院の産婦人科では、東日本大震災三日後から、震災前後に出産した母子に対し、安否確認を兼ねた電話連絡を行ってき ました。ここから、被災下でどのように母子の健康と栄養・衛生を確保するか、課題も見えてきました。若澤優子さん、千葉佳子さん(ともに助産師)の報告で す。
海岸から一・五キロの地点にある当院は、津波の直接的な被害を免れ、電気や水もなんとか確保しました。三月二二日までに他院から三一人の分娩予定者を受け入れました。三月は六一件の分娩を行いました(月平均四〇~五〇件)。
診療圏である二市三町の三〇%以上が浸水被害を受けました。「当院で出産した母子はどうしているだろうか」と、震災後三日目から、電話かけを始めまし た。震災後、全国から支援に駆けつけた九人の助産師が、電話かけの中心を担ってくれました。
震災ひと月前の二月一一日から三月三一日までの間に当院で出産した七四人に電話し、連絡がとれた母子は六〇人です。うち「自宅または実家」五〇人、「親戚・友人宅」九人、「避難所」一人でした。
母乳育児の利点
母乳育児を続けていた人は五一人で、母乳と人工栄養(ミルク)の混合栄養が九人。人工栄養のみの人はいませんでした。
母乳育児の母親は「水もガスもないし、母乳が一番」「赤ちゃんには私がいればいいんですね」などの声が聞かれました。
混合栄養と答えた母親は、近医を受診した際にミルクをすすめられたり、仕事開始で授乳時間がとりにくいなどの理由で人工栄養を取り入れていましたが、 「家族が避難してきた」「避難生活を送っている」など、被災で生活が激変し、育児環境が悪化した影響もみられました。共通して「水の確保が難しい」と訴え ていました。
四五人から相談がありました。新生児に関する相談が三八件、母親自身に関する相談が二〇件でした。新生児の相談でもっとも多かったのが「皮膚トラブル」 一八件、次いで「清潔に関すること」七件、「身体的トラブル」七件でした。母親自身の相談では「乳房トラブル」が一二件で最多でした。
ライフライン寸断のもとで
人工栄養の場合、水道やガスなどのライフラインが寸断されるなかで、「水不足」「清潔を保てない」などの問題が深刻でした。
当院では「母乳育児」を推奨してきました。震災など劣悪な環境でも安全で便利な母乳育児の利点を広め、安易に人工栄養を追加しないなど、母乳での子育て支援強化の必要性を感じました。
同時に、人工栄養の場合でも安全が確保できるよう、普段からどのような準備が必要か、考えていかなければなりません。
新生児の相談の多くは皮膚トラブルでした。ライフライン寸断で沐浴が十分にできず、保清が困難だったとみられます。こうした状況でどういう工夫ができるのか、普段の指導も含めて課題です。
母親の「乳房トラブル」については、当時はガソリンが極端に不足し、来院してもらうことが困難でした。受診せずに解決できる乳房トラブルの解決方法を検 討し、伝えていきたいと考えています。それでも、電話で「何かあったらいつでも相談にのるので電話してください」と伝えることで、地域に戻った災害弱者で ある母子に安心感を与えられたと思います。
災害時の備えをリーフに
電話が通じた人たちの回答を基に分析しましたが、連絡がとれなかった母子こそ困難を抱えていたのではないか、何か対策はとれなかったか、とも感じています。
調査結果を受け、母子の災害時の対応(ほ乳瓶がない時は? 紙オムツが足りなくなった時は? など)を記載したリーフレットを作り、来年度から母親学級などで普及することにしています。
(民医連新聞 第1518号 2012年2月20日)
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