「復興」私たちの提言(5) 義援金理由に起きた生活保護打ち切りは人権に関わる問題です 福島県南相馬市 荒木千恵子 市議会議員
被災地の生活保護受給者が、義援金や東電の補償金を受け取ったことを理由に、保護を打ち切られる事例が相次いでいます。中でも著 しいのが福島県南相馬市の227世帯。これを不服として3世帯が行った審査請求は県も認め(12月)、同市に打ち切り取り消しを求めましたが…。南相馬市 議の荒木千恵子さん(共産党)に聞きました。(木下直子記者)
震災前に南相馬市で生活保護を受給していたのは四〇五世帯。そのうちの二二七世帯ですから、過半数が打ち切られる事態でした。
五月に入ってから、一世帯あたり義援金四〇万円と、原発から三〇キロ圏内の住民に東京電力からの仮払い補償金一〇〇万円が支払われました。それを同市は「収入」とみなしたのです。
正規の手続きさえなく
こんなことが起きていたと知ったのは、困り果てた七十代のご夫婦から相談が入ったからで す。福祉事務所のケースワーカーが電話をしてきて「義援金と補償金で一年暮らせるので、生活保護は止めます」と言われたと。しかし、補償金については「仮 払い」で「返していただく可能性がある」と東電からも説明されており、受け取ったが「手をつけてはいけないお金」と認識なさっていました。そして「義援金 の四〇万円で一年も暮らせない」という訴えでした。
ほかの生活保護世帯でも同じようなことが起きていないか尋ねたところ、同様の事例が何件か浮上しました。中には四月から高校に入学するお子さんを抱えた世帯もあり、非常に心配されていました。
生活保護を停・廃止するには、訪問調査や書類の提出など、生活保護法で定められた手続きが必要です。南相馬は、手続き上に不備があったり、窓口担当者の 説明が不正確なまま打ち切りを行っていました。義援金や補償金の扱いに関して厚生労働省や福島県から通知も出ていたのですが、市は、その後も打ち切りを続 けていました。
生活保護の担当ワーカーが四人しかいないことも、問題を深刻にしていると思われます。ワーカー一人あたり一〇〇人を超える受給者を担当(国の目安では一 人あたり八〇人)しているのですから、仕事の質には期待できません。
被災前に在った問題
七月には県の反貧困ネットワークとして、弁護士さんたちを中心に、事例の掘り起こしを目的にした相談会も行っています。打ち切りの件数は分かっても、その当事者たちが地域のどこにいて、どんな状態にあるかは、私たち支援者にもつかみきれていないのです。
これには、震災以前から存在していた生活保護への不理解や受給者への差別が影響しています。打ち切りを不服として県に審査請求をしたのは三世帯でした。 私が相談を受けた人たちは他にもいましたが、「声をあげれば市役所にまた脅される」「嫌な扱いを受けるから」と、怯えているのです。
不服申請、県は認めたが
三人が行った不服申請は県も認め、打ち切りを取り消すよう南相馬市に求めました(一二月二一日付)。「手続きが法律に沿ったものでなかった」という理由です。
しかし、当事者や私たち支援者が事務手続き上の不備と併せて指摘した点は、もう一つありました。
それは「義援金や補償金が収入認定された」という問題です。
生活保護を受けていない住民の場合、義援金や補償金を受けとってもその収入が課税の対象にはなりません。義援金は全国の人たちからのお見舞いの気持ちで すし、補償金は原発事故で精神的肉体的に受けた傷に対する償いです。
ですが、生活保護受給者に対しては、「それを生活費に回せ」と指示される。生活保護受給者は、お見舞いも償いも受ける資格がないのか? ということで す。基本的人権がないがしろにされた出来事として捉えなければなりません。
今回のことをきっかけに、被災地で、日本国憲法を生かすことこそ求められている、市民の認識そのものも変えていかなければと、考えています。
日本弁護士連合会は、福島・宮城・岩手に青森・茨城を加えた被災5県で、義援金等の受領を理由として生活保護が打ち切られた件数が計458件にのぼったという調査を発表している(10月24日)。 |
(民医連新聞 第1517号 2012年2月6日)