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民医連新聞

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国保 差し押さえ 重い保険料 厳しさ増す実態 中央社保協が改善めざす全国交流集会

 中 央社会保障推進協議会(中央社保協)は昨年一二月四~五日、東京都内で国保改善運動全国交流集会を開きました。高すぎる国保料(税)の実態や、医療機関の 窓口負担が払えず命を縮めた事例、滞納者への差し押さえなど、国保行政の厳しさが浮き彫りに。一方で、国保法四四条の活用や、国保料を引き下げた運動の経 験も報告されました。最近の国保を巡る状況を見てみます。(丸山聡子記者)

 立教大学の芝田英昭教授が「国保のかかえる問題とその改善の方向」と題して記念講演。非正規労働者が激増する中、被用者保険に入るべき被用者が国保加入者の三割を超え、事業主が負担を免れている実態を告発しました。
 その結果、とても負担できない国保料であるにもかかわらず、自治体が滞納者へのペナルティーとして資格証明書を大量に発行。資格証明書交付者の受診回数は一般の人に比べ七三分の一と低く(表1)、なんと八年に一度の割合。「医療を受ける権利が完全に奪われている」と指摘しました。
 滞納世帯は加入世帯の二割を超え、資格証明書は約三一万世帯に(二〇一一年六月現在)。二〇〇八年には国保料収納率が全国平均で九〇%を割り込み、社会 保険としての機能が揺らいでいます。

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残高68円の預金も

 続いて参加者が、人権を無視した各地の国保行政の実態を報告しました。
 政府・自治体は、高すぎる保険料の引き下げには手をつけず、差し押さえなどの強化で滞納を減らそうと躍起です。分納相談にも十分に応じずに保険証を取り 上げる、農家のコンバインや葬祭業者の霊柩車など生業の糧を差し押さえる―などが横行しています。
 “取り立て”まがいの保険料徴収も増えています。京都市では、支払いが難しく、分納していた人に「二〇万円払え。払えなければ納付意志なしと判断する」と通知し、保険証を取り上げています。
 短期保険証・資格証明書とも発行数が政令市一位の福岡市では、学資保険や振り込み直後の年金、残高六八円の預金まで差し押さえ。二〇〇九年度は一九四六件、総額五億円超にのぼりました。

6万円引き下げを実現

 運動で改善を勝ち取る経験も。福岡市では「国保をよくする福岡市の会」と社保協が、四年間で二九万筆超(人口比二〇・七%)の国保料引き下げを求める署名を集めました。市長選でも国保料引き下げが争点となり、四年間で三回、計六万円超の引き下げを実現しました。
 福岡市社保協の藤野智明さんは、仕事がなく、医療費が心配で腹部の張りを半年も我慢した六〇代男性のケースを紹介。激痛で千鳥橋病院に搬送されました が、肝硬変、腹壁腫瘤で一〇日後に亡くなりました。「国保料と窓口負担の軽減は急務です」と藤野さん。
 宮城・坂総合病院の神倉功さんは、約四七万円(標準モデル四人世帯)と県内で最も高い塩竈市の国保税を引き下げた経験を報告。近隣の多賀城市(三二万 円)や仙台市(三〇万円)と比べても断トツに高く、八年間で三回、三三%も値上げした結果です。
 同市は国保加入世帯の二割に短期保険証を発行し、留め置きや資格証明書も多く、一〇%が実質無保険状態。国保税引き下げを求める署名にとりくむと、一昨 年九~一二月の三カ月で有権者の二割の九二〇〇人分が集まりました。
 「署名を集めていると『塩竈が一番とは』と驚きが広がり、自営業者が『ありがとう』と涙ながらに手を握ってくる」と神倉さん。世論が広がるなか、市長選 では現職市長も引き下げを口にせざるを得なくなり、来年度は二万円弱の引き下げが決まりました。
 「それでもまだ高い。国保税引き下げは圧倒的な市民の声。粘り強い運動でさらに引き下げたい」と語りました。

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44条の形骸化許さない

 国保法四四条は、失業や被災など「特別な理由」がある場合、医療費の窓口負担を減額・免除 できるとしており、「特別な理由」は自治体が条例等で定めています。しかし、条例すらない自治体も多く、それを理由に減免申請が受理されないことが問題と なり、厚生労働省が通知を出しました。
 また、「特別な理由」に「収入が前年比二分の一以下に減少した場合」「生保基準の一二〇%」などと規定する自治体も多く、利用が広がらない原因となっています。
 こうした規定で減免を却下された秋田県仙北市の千葉秀喜さん(角館生活と健康を守る会)は、減免を求めて提訴。昨年一月に秋田高裁で勝訴しました。桜皮 細工職人の千葉さんは、もともと生活保護基準以下の収入でした。いっしょに働いていた実母の病気で収入が減り、市に対して医療費の減免を申請。しかし、収 入が前年比で二八%減だったことから却下されました。
 秋田高裁判決は、そもそも四四条は「生活に困窮した被保険者の支援・保護を図ることを目的とするもの」であり、「収入が前年比二分の一以下に減少」と限 定することに合理性はないと判断。自治体の条例や要項は「個別具体的な事情を総合的に考慮できる内容でなければならない」と、四四条のあるべき姿を示して います。報告した全国生活と健康を守る会連合会の辻清二事務局長は、「この判決を、減免を広げる力にしたい」と訴えました。
 兵庫・尼崎医療生協の杉山貴士さんは、低所得で医療を受けるのが困難な五人の患者の減免申請にかかわった経験を紹介。同医療生協は無料低額診療事業を 行っていますが、杉山さんは「目の前の患者を救うために無低診は有効だが、四四条を積極的に活用し、国に公的責任を果たさせることこそ必要。四四条の形骸 化を許さず、社会保障としての国保を取り戻す具体的な運動として活用を広げたい」と語りました。

「国保は社会保障」

 国保を「相互扶助」の制度と紹介する自治体が多いなか、相模原市は市のしおりに「社会保障 の一翼を担う制度」と明記しています。相模原社保協が継続して市と懇談を持ち、「国保の厳しさは国の問題」「市民の暮らしは大変」との共通認識をつくり、 資格証明書を発行させないなど粘り強い運動を続けてきた成果です。
 中央社保協の相野谷安孝事務局長は、「国保は社会保障との立場で、人権を守る運動と捉えることが大切。各地の経験から、粘り強くとりくむことの重要性が明らかになった」と語りました。

児童扶養手当まで差し押さえ

北海道 伊達市

 集会では、北海道・伊達市が、生活保護受給中の母子家庭の児童扶養手当を差し押さえた、との報告がありました。札幌社保協の抗議で撤回させましたが、同じような事例が複数あることも明らかになりました。
  札幌市では、「差し押さえ係長」を本庁と行政区に配置。二〇〇四年に九一件・四〇〇〇万円だった差し押さえが、一〇年には一三四四件・三億八〇〇〇万円に急増しています。
  札幌社保協の佐藤宏和さんは、「違法な差し押さえに対しては、すぐに抗議して是正させることが必要」と指摘。国税徴収法では、衣類・寝具など生活に必要な ものや、農機具や家畜など生業維持のための財産は差し押さえ禁止になっていることを示し、「禁止財産の差し押さえを許さず、納付困難な実態を詳しく説明 し、生存権を保障させるたたかいが重要です」と強調しました。

(民医連新聞 第1516号 2012年1月23日)