第10回全日本民医連学術・運動交流集会in東京 震災・原発事故にたち向かう ―ナイトセッション
一日目夜には、二つのナイトセッションが行われました。
今回の原発事故を医療従事者としてどうとらえるべきか
講演 吉井英勝さん(日本共産党衆院議員)
2つの人災が招いた原発事故
福島原発事故を捉えるうえで、「事故は人災」との視点が大切です。地震と津波は天災です が、事故は二重の人災で起こりました。一つは震災前から事故が起きる可能性が指摘されてきたのに、東京電力は無視した。二〇〇七年の新潟中越沖地震で柏崎 刈羽原発が故障した際、当時の所長はくしくも「想定外」との言葉を口にしました。東電は何かあると、「想定外」と責任逃れをする体質。私は国会でも再三、 危険性を指摘してきましたが、安全対策をとりませんでした。
もう一つは震災直後の東電と政府の混乱です。電源喪失後に東電は廃炉を恐れ、ベントと海水注入をためらいました。当時の菅首相は原子炉等規制法の権限を 行使せず、東電に命令するのが遅れた。結果としてメルトダウンが起きてしまいました。
東電が事故情報を隠す大元には「原発利益共同体」の存在があります。原発の利権を巡り、大企業、政治家、官僚、学者、マスコミがこぞって「安全神話」を 作り上げ、神話を守るために秘密主義になった。海外の記者は「原発利益共同体の体質はチェルノブイリ事故と酷似している」と指摘します。
一〇月にチェルノブイリを視察してきました。現地で聞いたのは「IAEA(国際原子力機関)は原発推進機関にすぎない。IAEAの発表より、事故被害者 はもっと大勢いる」との話です。チェルノブイリの教訓を活かし、福島でも徹底した除染が必要です。
再生可能エネルギーで脱原発を
東電を救済する「原子力損害賠償支援機構法」が、八月に民主、自民、公明の賛成で成立しま した。七兆円もの税金を使って、この共同体を維持する計画です。原発に依存しない社会をつくるには、再生可能エネルギーの爆発的な普及が必要。岩手県葛巻 町や高知県梼原町のように、再生可能エネルギーを活用すれば、地域経済も元気になります。
シンポジウム
民医連は心ひとつに
東日本大震災にどう取り組んだか
全日本民医連の藤末衛会長が基調報告。その後、シンポジストとして、岩手民医連会長尾形文智さん、坂総合病院院長の今田隆一さん、福島県民医連会長の松本純さん、そして全日本民医連の山田智・介護福祉部長が報告しました。
長年の活動経験をいかして
藤末会長は巨大津波と放射能汚染の広範囲の被害に、一万五〇〇〇人の民医連職員が被災地に入り、長年行ってきた被爆者医療と災害救護活動の経験を生かして、社会的被害と健康被害に対応した支援ができたと紹介しました。
尾形さんは、震災直後、停電や断水で県内沿岸部の被災地支援に入ることが困難だったと報告しながらも「仮設住宅を訪問し、廃用症候群の予防活動をし、セラピストやケアワーカーが力を発揮した」と話しました。
今田さんがはじめに全国の支援に感謝を述べると、会場からは大きな拍手が起きました。坂総合病院では、地震発生時から一三分でトリアージ体制を整え、搬 送されてきた二四〇〇人の患者に対応しました。地震から三日後には、災害弱者の妊婦や認知症患者、慢性疾患などで医療処置が必要な人への援助を行ったと報 告しました。
長いたたかいの始まり
松本さんは「原発事故以来、福島県民は放射能との長い戦いを強いられています」と切り出 し、福島では、全日本民医連緊急被曝事故対策本部の支援も受け、放射線学習会を行い、六〇回以上、五〇〇〇人を超える参加者を集めたと話しました。また、 精神科医療委員会から「心のケアチーム」の派遣や、現在も職員のリフレッシュ休暇のために支援が入っていると報告しました。
山田さんは「高齢者を孤立させないしくみが必要」と指摘しました。今回の震災で、大きな役割を果たしたのは地域包括支援センターの職員でした。介護保険 利用者を中心に、被災した高齢者の居場所を把握し、安否確認ができたと紹介しました。
また、民医連外の特別養護老人ホームで犠牲が出たケースを紹介し「普段から救援体制づくりと、役割の確認をしていくことが大事」と話しました。
(民医連新聞 第1512号 2011年11月21日)