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民医連新聞

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第10回全日本民医連学術・運動交流集会in東京 記念講演 一橋大学名誉教授 渡辺 治さん 福祉国家の実現は私たちの責務

 学運交でおこなわれた記念講演(II)は、一橋大学名誉教授の渡辺治さんの「貧困・格差を克服する新しい福祉国家をめざして―い まなぜ社会保障憲章・基本法なのか―」です。渡辺さんはこの間、多くの研究者や社会運動団体メンバーらと議論を重ね、福祉国家構想づくりにとりくんできま した。概要を紹介します。(木下直子記者)

 民主党政権は、日本の貧困・格差を深刻にした構造改革路線への反対世論を受け、一時は福祉型の政策を打ち出したものの、「一回転」して構造改革・日米同盟強化路線に戻りました。
 期待を裏切られた国民は、かといって自民党に戻ることもできず、方向性を模索しています。我々が打ち出した福祉国家型の対抗構想が切実に求められています。

■なぜいま福祉国家構想?

 新しい福祉国家構想が必要な理由には四点あります。
 一つは、最初に述べたように、民主党政権の構造改革路線への逆戻りに対してです。鳩山政権で一時は保守の枠から脱したが、構造改革に代わる国家のあり方 を構想できませんでした。福祉の実現をはかろうとした民主党内の勢力も「財源がない」という攻撃に屈しました。トッピングのような福祉では、貧困・格差の 実態は変わらないと分かった。構造改革を脱却する福祉国家構想を、国民に示すことが不可欠なのです。
 二つめの理由は、東日本大震災が明らかにしました。医療や介護・福祉は三月一一日の前から崩壊の危機に瀕していました。被害が拡大したのは、三位一体改 革や市町村合併などの「地方構造改革」で衰退していた地域が被災したからです。原発の問題も、企業のために国民の安全も考慮しないという国策が発端です。
 だから震災と原発事故からの復興は、震災前の状態を目指していては不十分で、福祉国家型の復興を目指す必要がある。
 三つめは、震災後、民主党政権が打ち出した構造改革型の復興構想や一体改革構想に対抗するためです。政府の復興構想は、農地や漁港の集約化やTPPへの 参加、特区や道州制の導入など、いままでできなかったことを震災をテコにして行おうというもの。この構想は財界の復興構想を引き写したような内容です。
 「社会保障と税の一体改革」は、そもそも旧政権が、ワーキングプアなどのように構造改革で浮上した社会問題を繕いながら、構造改革をもっとすすめる目的 で作った「社会保障国民会議」や「安心社会実現会議」と同じ流れのものです。ただ今回の「一体改革」は、大震災を経て、「社会保障を改善するから、消費税 率を上げる」というニュアンスから「社会保障はリストラする、消費税率も上げる」へ、さらに変質しているのが特徴です。
 そして四つめは、社会保障運動の「たこつぼ化」を克服する目的です。構造改革は「一体」で攻めてきます。かたや我々は医療や介護、保育や障害者福祉な ど、どの分野の運動もがんばっているが、相互の連携となると課題です。敵(構造改革)のやり口を各分野で共有し、有効にたたかうためにも、福祉国家構想は 「使える」のです。

■福祉国家の6つの柱

 福祉国家の対抗構想は、国家レベルで必要です。柱を六つたてました(別項)。
 とくに、第一の柱である社会保障の部分については、社会保障の全体像と原則を宣言する「社会保障基本法」と、その理論的根拠を盛り込んだ「社会保障憲章」を打ち出しました。
 日本には、生存権の原則を明らかにした憲法二五条がありますが、その具体的な権利は示してはいません。長きにわたる社会保障運動が豊かにしてきた二五条の権利の最大限を「基本法」で明示しました。

■歴史の分岐点3・11

 三月一一日は、八月一五日と同じく国民に記憶される日になりました。
 8・15は新憲法をつくった日になったが、3・11がどんな意味を持つのかは、まだ決まっていません。
 新自由主義の再起動の出発点になるのか、新自由主義からの訣別の日になるのか、その分岐点は私たちの運動が決める。民医連の皆さんにはこう呼びかけたい と思います。「福祉国家の実現は『生き残った』私たちの責務」だと。


《6つの柱》

憲法25条が保障している雇用保障と社会保障、教育保障の体系…第1の柱
福祉を保障し、消費税を上げなくてもよい安定財源の確保…第2の柱
大企業本位でない、地域と中小企業が中心の経済成長政策…第3の柱
脱原発、原発に代わるエネルギー政策…第4の柱
福祉国家型の真の地方自治と民主的な国家…第5の柱
日米安保体制のない日本の安全とアジアの平和―憲法九条を活かす日本…第6の柱

(民医連新聞 第1512号 2011年11月21日)