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民医連新聞

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復興に欠かせない医療再生 ドクターズデモンストレーション 実行委が仙台でシンポ

 九月二三日、「震災復興と医療再生」と題したシンポジウムが宮城県仙台市で行われました。「医療崩壊の現状を多くの国民に知ら せ、医療費抑制政策から医療再生へ転換をはかるために医師・歯科医師自身が立ち上がろう」と、医師有志が呼びかけた「ドクターズ・デモンストレーション」 の一環です。県医師会や県歯科医師会幹部がシンポジストに名を連ね、気仙沼市の菅原茂市長からもメッセージが。参加した一六〇人は、復興のためにも医療再 生が欠かせないと確認しました。医療機関の被災状況や再建の課題は? シンポから紹介します。(木下直子記者)

加速する医療崩壊

 冒頭、ドクターズ・デモンストレーションのよびかけ人、本田宏医師(済生会栗橋病院)が基調報告。「日本の医療費は先進国の中で最低、逆に国民自己負担は世界最高。そのうえ、薬剤や医療機器は世界一高い国になっている」と指摘しました。
 政府は医師増員の方針だが、日本の医師数はOECD(経済協力開発機構)平均比で一三万人不足、高齢化率や医療提供から換算した必要数には二〇万人が不 足している現状を改善する内容ではない、とした上で「日本の総医療費をG7(先進七カ国)平均並みのGDP一〇%以上に引き上げなければ、医療崩壊は加速 し、大量の医療難民が発生する」と述べました(図1、表1参照)。
 また、被災地復興のためにも、社会的インフラとしての医療や介護・福祉の充実に最優先でとりくめば、若者の雇用拡大や国内経済の活性化、国民の将来不安 が軽減できると強調。「一〇〇〇年に一度といわれる大震災と原発事故の放射能漏れを経験した今こそ、『富(≒金)国強経』から『豊国幸民』に価値観を転換 するチャンス」と、会場に呼びかけました。

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4割の医療施設に被害

 五人のシンポジストが医療施設の被災状況などを、それぞれの立場から報告しました。
 宮城県内にある病院、医科・歯科診療所の四〇%余が、建物の全・半壊はじめ、なんらかの被害を受けました。使用不能になった病床は約一〇〇〇床。被害総額は、県の調査でも三〇〇億円を超えています(表2)。
 被害が甚大だった太平洋沿岸部の医療機関の再開状況は、被災半年後の時点でも、七~八割という状況です(図2)。震災発生直後は、DMATなど全国から駆けつけた医師・医療者が救急医療を支えましたが、数日で医療ニーズは慢性期へ移行。震災前から存在していた深刻な医療崩壊の問題が、たちまち表出しました。
 「『医療過疎』だった地域が、大震災をきっかけに『医療空白地域』になった」と、シンポジストの一人・坂総合病院院長の今田隆一さん(全日本民医連副会 長)。今田さんは、東北地方の医師数が、人口比でも面積あたりでも全国最低レベルだったデータを示し(図3)、面積あたりの病院数も非常に少ない、と強調 しました。
 歯科は医科以上に問題が。宮城県歯科医師会会長の細谷仁憲さんは、歯科医療のニーズが高いにもかかわらず、災害医療システムには歯科が欠落していることを指摘しました。
 また、避難所や仮設住宅への往診も、歯科の場合「常時寝たきり」の患者に限定されるなど、法的な制約で思うようにすすまない現状を報告。「阪神淡路大震 災(一九九五年)の教訓が、今回の震災で生かされなかった」と話しました。

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再建に苦しむ医療機関

 被災後、再建に苦しむ医療機関の状況と、被災医療機関への公的支援の課題について、宮城県 保険医協会理事長の北村龍男さんが報告しました。同協会が診療を再開できていない会員を調査したところ、アルバイトをしながら再開をめざす人がいる一方、 廃業も出ています。また、医科・歯科別では歯科の厳しさが際立ったのも特徴でした。
 被災医療機関には復旧を補助する制度「医療施設等災害復旧費用補助金」がありますが、これを利用できるのは、公的医療機関や政策医療を行う民間医療機関 に限定されています。また、被災時の住所から移転して再開する場合も対象外(※地盤沈下など特別の事情がある場合は別)。災害拠点病院や小児救急医療拠点 病院も対象に追加されましたが、民間医療機関の多くが補助の対象外であることには変わりありません。
 「公立・民間を問わず、地域医療を担ってきたのに、なぜ援助を線引きするのか」、「医師は立ち上がることができれば自分で歩く。立ち上がる手助けをする のが行政の役割ではないか」など、会員の医師たちから声があがりました。

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 企画の最後に、被災地の医療・福祉・介護の復旧への特別な援助や、住民や医療従事者が望む医療の再生と復興のために必要な手立てをとることなどを、国や自治体に求める声明を採択。医療再生は被災地復興のためにも待ったなしの課題です。

(民医連新聞 第1510号 2011年10月17日)