相談室日誌 連載337 路上生活に戻ったAさん―支え方、制度の矛盾考えた 隈元朋枝(東京)
Aさんは五〇代の男性です。一年前に姉に連れられ、国保資格証明書で当院を受診しました。糖尿病と診断されました。
以前は福島で働いていましたが、四年前に上京。姉宅に住所を置き派遣の仕事をした時期もあったそうですが、受診時は路上生活になっていました。姉にも、 数年ぶりに訪ねてきた弟を受け入れる余裕はありませんでした。生活保護の申請に区役所へ行きましたが、自立支援事業の緊急一時保護センターに入所になりま した。
そのAさんが一年ぶりに当院に現れました。路上生活に戻っており、事情を聞くと「緊急一時保護センターから自立支援センターに移ったが、仕事はなく収入 もわずかで退去した」と話しました。日雇いの仕事をしながら、ネットカフェや路上で寝ていると言います。
Aさんは「姉の家に久しぶりに行ったら、義兄から病院に行くよう言われて。受診したいわけじゃない。死ぬ時は死ぬんだからさ」と笑い、SWが生活保護を すすめても拒否しました。後日、給料日に医療費を全額払いに来てからは、治療も中断してしまいました。
Aさんの行動は、「自己責任」と片付けられがちです。しかし路上生活者は、社会生活の「しづらさ」やなんらかの障害を抱えている場合も多いのです。Aさ んにも、理解力や判断力の困難さが見受けられました。また、自立支援事業制度にも不十分さがあります。
以前、ホームレス支援団体といっしょに相談会を行った際、彼らが路上生活者に密に関わっていることに驚きました。支援は、一律の対応ではなかなか成功し ません、私たちも、支援団体と連携を強めながら、「自立」を支え、制度の問題も訴えていきたいと考えています。
自立支援事業…東京都と二三区の共同実施で、路上生活者 保護と社会復帰を支援。「緊急一時保護センターで一時的な保護と健康回復をはかり、就労の可能性をアセスメントした上で、自立支援センターで自立を目指 す」とされているが、施設の規則も厳しく、退去する人も多い。生活保護ではないため当事者には医療扶助と食事、小遣いの支給のみ。生活保護の申請に来た人 が住所不定の場合、この事業に振り分ける傾向もあり、問題がある。
(民医連新聞 第1510号 2011年10月17日)
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