がんの治療費、高すぎる 看護師ら負担軽減で運動 京都民医連中央病院
八月一七日、ひと綴りの請願署名を抱え、京都の看護師が国会にやって来ました。外来で抗がん剤治療をする患者さんの医療費を軽減 するために「高額療養費制度」を改善してほしい、と訴えることが目的。がん治療は完治を目指すまで進歩しましたが、闘病を支える制度は遅れています。その 大きな一つが医療費負担の問題。抗がん剤などがあまりにも高額で、患者の多くが経済面で不安を抱えています。(木下直子記者)
患者の投書きっかけに
署名は京都民医連中央病院の看護集団が始めたものです。
同院では昨年一〇月、外来で抗がん剤治療を行う化学療法センターが開設しました。同時期、処方も院外薬局に移行することに。すると、投書箱に「院内処方 を続けて」というがん患者からの投書が殺到しました。同院には無料低額診療制度がありますが、保険薬局では無低が行えないため、患者さんの薬代負担が発生 するのです。
「投書のほとんどが薬代のことだった、という月もありました」と副看護部長の川原初恵さん。
「無低の利用者には院内処方を継続するなどの対応は決めたのですが、この一件でがん患者さんが治療費にこんなに苦労しておられたと思い知らされて…」。
1錠9000円の薬も
同院の薬剤課が通院中のがん患者数人の薬価を出してみると。内服薬が一錠で九〇〇〇円余(白血病)、点滴一回の薬価が七万円超、内服を合わせるとひと月四〇万円近い(乳がん)など、三割負担で計算しても一〇万円を超えるケースも珍しくありません。
師長会議でも話し合い、「これは一つの病院で解決できる問題ではない。がん治療の患者負担を減らす運動が必要」という結論に。
当初は「運動なんて、どうやって始めたらエエの?」と言っていた看護師たちですが、京都市の周産期医療の充実や不当減点訴訟など、患者の事例をもとに運 動してきた「伝統」があります。元同僚看護師の市会議員や事務職員の助けも借りつつ、動き始めました。
高額療養費に絞って
請願の項目は「高額療養費制度」に絞りました。制度改定も予定されており、すぐ改善してほしいという点をあげました(別項)。
高額療養費制度は、月の医療費負担が所定の額を超えた分、患者に還付されるものですが、外来通院に関しては、入院と違って現物給付がされず、どんなに高 額な治療費でもいったん患者が窓口で立て替えねばなりません。お金が戻るのは、早くても三カ月後。
年齢や所得別に設定されている「上限額」も高い。現行では七〇歳未満の上位所得者(多数該当)で年一二八万円、一般で七三万円まで患者が負担せねばなりません。
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「この署名、『してもらわな困る』と思って集めてます。患者さんたちは、署名のタイトルを見ただけで協力しはります」と、外来看護師。
がん患者のおしゃべりサロンなどを担当し、自身もがんと闘病中の職員も「窓口での一回の支払いは何万円単位、という患者さんがほとんど。私の治療費も毎 月一五万円ほど。抗がん剤治療中の患者には、行動制限があり、フルには働けません。収入がなければ貯金を食い潰していくしかない。『お金の切れ目が命の切 れ目』という言葉は現実。がん患者にとって使える薬があるということは、本当は嬉しいことなのに」。
全日本民医連の保険薬局が九月一日に発表した「窓口一部負担金調査」でも、がん患者の一回の窓口支払額が平均二万円超と負担の重さが指摘されています。また耳原総合病院(大阪)からは、「治療に来なくなるがん患者が年間十数人」との報告もあがっています。
収入で医療に差ができては
闘病を経済的に支援すれば、治療効果は上がりますか? 化学療法科の医長として、がん治療にあたっている野崎明医師に質問すると…「よくなります」と即答が。
「親の収入と子どもの学力との相関がいわれますが、がん治療にも同じことがいえるでしょう。お金持ちの方が快適に療養できるなどという差は仕方ないかも しれない。でも受けられる医療に差があってはいけない。医療はぜいたくではなく社会保障ですから」
運動への協力要請は民医連外の病院や患者団体にも行い、すでに府内の数病院から賛同がきています。京都の看護師たちが患者さんの声をきっかけに始めた運 動は、全国的な課題でもありました。当面の目標は一万筆です。
署名の請願事項
1、立替払いの解消へ、外来負担限度額を超える負担について現物支給を速やかに実施すること。(外来でも、高額療養費の委任払い制度を実施すること)
2、高額療養費の限度額を引き下げること。
3、長期治療が継続できるよう、高額長期疾病の指定対象を拡大すること。
中京社保協などといっしょに「外来がん治療患者等の窓口負担の軽減を考える会」を結成しとりくんでいる。
◆問い合わせは 太子道診療所 電話 075(803)2259
(民医連新聞 第1507号 2011年9月5日)