「復興」私たちの提言(2) 被災校の苦労・教員の疲労 行政は現場の後押しを 宮城県教職員組合 瀬成田(せなりた)実 書記長
復興に必要なことを各分野に聞く連載。2回目は宮城県教職員組合の瀬成田実書記長です。教員たちは地震発生直後から、津波からの 避難や雪降る夜の避難所で子どもたちを守ろうと懸命に働きました。宮城県内の公立学校では、児童の死者・行方不明359人、教職員は18人が犠牲になりま した(5月10日時点)。(木下直子記者)
■子どもの学習を保障したい
五月の連休明けにはすべての学校で授業が再開されましたが、校舎が被害を受け、他校や公共施設などを使った「間借り校」は、高校で四校、小中学校では五〇校にのぼっています。
間借りでは、落ちついて勉強できません。中学校の体育館を段ボールで分けて一学年四学級が授業をしたり、公民館の和室をクラス交代で使ったり、子どもに も教員にも厳しい環境です。進路相談を風呂場で行っている高校もあります。間借り先が複数カ所に分散したため教員の手が足りず、その結果、選択科目を減ら して進学に必要な履修科目が足りなくなる、といった問題も発生しました。
また、間借り校まで距離がある場合は、子どもたちを毎日バスに乗せて移動します。移動に片道一時間以上かかる学校では、車内で授業をして、学習時間の不足を補おうという努力もされています。
瓦礫置き場が近いところでは、臭いやハエも悩みです。行政に対策を求めても、エアコンはおろか、網戸も簡単に入れてもらえせん。
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被災家庭への就学援助や通学交通費への補助は必要です。組合でも実施状況を調べましたが、給食費の全員免除を含めて就学援助を行っている町もありますが、国の動向待ちで手を打っていないところもあり、同じ県内でも自治体によって対応が違っています。
津波で自宅が流され、親戚宅から電車通学しているが、失業した保護者には片道二〇〇〇円の交通費の負担が重く、学校が続けられるだろうか、という生徒もいます。
六月末には国の第一次補正で二万三〇〇〇人分の就学援助が追加されましたが、石巻市と東松島市だけで希望者が七〇〇〇人を超えたという情報もあります。 国からは、PTA費や部活動費、生徒会・児童会費などにもこの予算を充てるよう指示がありましたが、これも自治体によって対応に差が出るだろうと、私たち は懸念しています。
■教員たちの負荷
教職員には、通常をはるかに超える業務が山積みです。子どもの転出入が多くそれに伴う実務、避難所が設置された学校ではその対応、届いた支援物資の仕分けなども教員の仕事で、クタクタになっています。
宮城県の教育委員会が強行した人事異動にも翻弄されました。学校現場は、子どもたちのフォローを継続してできるよう、人事異動の凍結を強く要望しましたが聞き入れられませんでした。
異動を命じられた教員は、被災して不安の中にいる子どもたちと引き離され、後ろ髪を引かれるように赴任しました。この決定には県議会や全国から批判が集 中し、県教委は「夏まで前任校と兼務」と発表しました。ところが実際は市町村教委や校長の判断で、四月中に新任校に異動させられています。
阪神大震災では被災後三カ月を過ぎたころから、倒れる教員が出たと聞いていましたが、宮城でも、亡くなった教員が出ています。最近も県南の被災校で事務職員が心筋梗塞で亡くなりました。
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文科省は県内の小中学校で二一六人、高校と支援学校で二八人分の教職員の加配を決め、他県から教員も約一〇〇人派遣されてきました。しかし、派遣が一学期のみであったり、必要な学校に配置されていないといった問題もあります。
また、いくつかの県が学校カウンセラーを派遣してくれていますが、一週間くらいで交代します。子どもたちのケアの継続性からいえば、同じ人に一年いてほしいのですが、「好意」の派遣なので、いま以上の要求は難しいのです。
ですから、国や県が責任をもって被災地の教職員を確保し、学校や子どもたちを後押ししてほしいと切実に思います。
また、住民そっちのけですすめられる復興も困ります。被災者にも負担を強いる増税でもなく、いまもギリギリのところで踏ん張っている公務員の削減でもな い被災地支援に、国はきちんととりくんでほしいと思います。優遇税制や軍事予算や、政党助成金など、手をつけていいところは他にもあるのですから。
(民医連新聞 第1506号 2011年8月15日)
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