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民医連新聞

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駆け歩きリポート 偏見差別の中いまだ残る被害者救済の課題 新潟民医連・水俣病住民健診 新潟

 新潟民医連が昨年から新潟水俣病阿賀野患者会などととりくんでいる、新潟水俣病住民検診(主催:新潟水俣病住民検診実行委員会) が五月二八日と六月二五日に下越病院で行われました。二日間で検診には計二七人が受診。全員が水俣病と診断され、水俣病被害者救済特別措置法(以下、特措 法)に基づく給付の申請の意向を示しました。被害者救済を求めて一五人が受診した二五日の検診を取材しました。(安丸雄介記者)

“水俣病と言えない”

 Aさんは阿賀野川上流の阿賀町在住で七○代男性です。昔は親が阿賀野川で捕ってきた魚を毎日食べ、三○年前から手足のしびれなどが現れました。しかし、自身が加害企業・昭和電工の関係者で、家族が周りの目を恐れ検診を諦めていました。
 いまでは両足の脛から下の感覚がなく、今回は友人に水俣病患者会の会員がいたことから紹介され、受診しました。「水俣病と診断され、しびれが魚のせいだ と分かった。第二の水俣病の発生を許した国への怒りもあるが、いまは法律に基づく一時金給付を求めようと思っています」と話しました。
 検診実行委員会は、Aさんのように水俣病にはまだ偏見差別の中で受診が遅れる被害者が多く、それは昭和電工の工場があった阿賀野川上流地域で顕著だと見 ています。新潟の患者は熊本・鹿児島と比べて平均年齢が五歳ほど高く七○代。上流域在住者と壮年層の掘り起こしが今後の課題です。

“今日来なければ”

 Bさんは新潟市在住、七○代女性です。口と手足のしびれ、耳鳴りなどを訴えてきま した。車のハンドルなど何を握っても感覚がありません。「昔はサケ、アユ、エビ、ウグイ、シジミなど川から何でも捕って食べていた。川水を風呂代わりに し、川は生活の一部だった」と言います。
 今回の診断を受け、「以前は水俣病のことをニュースで見ても他人事でした。今回、特措法の救済の申請をします。検診に今日来なければ診断ももらえず泣き 寝入りでした」と語りました。実はBさんは過去にも水俣病を疑い、一度は大学病院を受診しましたが、「立証できない」と言われた経験がありました。

27人全員が水俣病

 五月と六月の受診者二七人全員が水俣病と診断されました。今年三月「ノーモア・ミ ナマタ新潟全被害者救済訴訟」の和解が成立し、原告一七一人全員の救済が実現。九州・新潟の水俣病裁判のたたかいが特措法の救済率アップにつながりまし た。それでも患者さんは地域に残されています。関川智子医師(沼垂診療所所長)は「新潟民医連で水俣病と診断された被害者は多数います。最初に掘り起こし た私たちが、最後まで責任をもってやることが当然だと思う」と話します。
 関川医師は一九七一年から新潟水俣病の診察に携わっています。水俣病特有の症状があると診断書を書いても、審査会で認定却下されることが続いていまし た。ある時、水俣病弁護団の弁護士から「先生は自分の診断書が間違っていると言われて腹が立たないのか?」と聞かれ、「認定却下は私の診断が認められな かったことであり、水俣病のたたかいは医師としての私自身のたたかいだと考えるようになった」と言います。

“第二の水俣病”の責任

 新潟の訴訟では昭和電工だけでなく国も被告として訴えています。熊本で水俣病が発 生したころにはすでに水銀の有害性は指摘され排水ストップが叫ばれていました。防げたはずが、国の指導不徹底で“第二の水俣病”を引き起こした責任は重大 です。関川医師は、全被害者の救済のために国・行政、加害企業が実施すべきことを語りました。
 (1)特措法の恒久化…三年という申請期限はなくすべきです。
 (2)国・行政の責任で検診を実施…問診を含め検診には一人三時間以上を要します。日常診療の合間では一カ月一○人が精一杯。民間の協力も得て、国・行政の責任で検診をやるべきです。
 (3)区役所以外で申請可能な施設を増やす…家族が役所勤めだからと申請しない人もいる。申請可能施設を増やすべき(現時点では、新潟水俣病資料館で申請可能)。
 (4)被害期間対象の緩和…被害期間は昭和電工が水銀排水を止めた昭和四○年の年末までに限定されていますが、排水を止めても川には水銀が蓄積しています。

患者さんに寄り添う

 新潟水俣病阿賀野患者会事務局長の酢山省三さんは、「水俣病の検診では患者さんの 社会背景も考え、何十年前の生活歴を紐解き、所見も時間をかけ丁寧に聞きとります。まさに痛みを共感して心を開いてもらう、患者さんに寄り添う民医連医 療」と話しました。新潟民医連は検診を職員の研修にも位置づけています。
 この日は医師四人を含む職員二六人の参加で、下越病院の一年目研修医二人が問診と神経所見の診察に参加。岩田真弥医師は「問診項目が詳細で驚いた。昭和 電工に補償請求しにくい関係者もいるなど、社会的問題もある。どこまで医者として踏み込み、患者さんに関わればよいか悩む」。浅川友美医師は「所見取りは 大学の教科書通りにいかず大変。新潟だからこその貴重な経験もできた」と。
 また、看護師の北澤絵里香さん(下越病院)も初参加。「『もっと早く検診を受けたら早く給付が受けられた』との患者さんの後悔の声や、付き添っていた人 も症状があるのに子どもが公務員だから申請しないと聞き、つらかった」と話しました。

(民医連新聞 第1505号 2011年8月1日)