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民医連新聞

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被災者支援と脱原発で今すぐ行動を 被ばく問題交流集会

 全 日本民医連は六月一八~一九日、東京で第一二回被ばく問題交流集会を開きました。一八日の公開シンポジウムは二七三人、一九日の交流集会は一一五人が参加 し、かつてない規模に。医師や研究者の講演、福島県の農家や村議の訴え、原発立地の県連報告がありました。藤末衛会長は「原発被災者を支援すること、日本 から原発を無くすこと、集会を通してこの二つが私たちの課題であることがはっきりした。明日から行動を開始しよう」と呼びかけました。(新井健治記者)

福島の農家や村議の訴え

 原発事故で市内が三つの避難指示圏に分断された福島県南相馬市から、農家の郡(こおり)俊 彦さんが駆けつけました。郡さんは一二年前から合鴨農法で無農薬の米を作っています。安全でおいしいと固定客もつき、普通の米の二倍以上の値段で売れます が、今年は田植えもできません。「除草方法や外敵対策など、本一冊を書けるくらい工夫した。積み重ねた技術が、原発事故で無になった」と怒ります。
 同居していた母は、避難先で肺炎をこじらせて亡くなりました。九月に一〇〇歳のお祝いをするはずでした。父は三三歳で戦死しています。「おやじもおふく ろも、故郷で死ねず、箱に入って帰ってきた。戦争も原発も、世の中がまともなら防げたはずだ」。
 郡さんは国と東京電力に、エネルギー政策の転換と原発事故被害の全面賠償を求めています。「最近も相馬市の酪農家が、風評被害を苦に自殺した。東電は私 たちにさんざん迷惑をかけた。まずは全面的に賠償すべき。それが人としての道でしょう」と話しました。
 全村が計画的避難区域に指定された飯舘村からは、佐藤八郎村議(共産)が報告。同村は原発から北西に約四〇キロ離れていますが、地形の関係で高い放射線 量が検出されています。佐藤さんらは、村長に何度も全村民避難を要望しましたが、拒否されました。「村長が村民の健康を軽視したため、多くの人が高い放射 能を浴びてしまった」と振り返りました。
 福島民医連の松本純会長は、事故発生直後の三月一二日の状況を説明。事故を知った原発周辺の住民は、国道114号を北西に向かい川俣町などに避難しまし た。「大きな道がこれしかなく、結果的に放射性物質が飛散した方向に逃げることになってしまった」と指摘します。
 伊達市が独自に住民の避難を支援し、一カ月たってから、ようやく政府が特定避難勧奨地点に指定したことを紹介。「今の政府は待っているだけでは何もして くれない。住民と地方自治体で国を動かすしかない」と強調しました。

原発立地県連の活動報告

 全国には五四基の原発があり、立地の県連は脱原発運動にとりくんでいます。六ヶ所村核燃料 再処理施設を抱える青森から、あおもり協立病院の横濱正幸さん(放射線技師)が報告。下北半島には同施設のほか、大間原発、むつ中間貯蔵施設、東通原発が 集中、地元で“核燃半島”と呼ばれています。
 福島第一原発の事故で、使用済み核燃料が注目を浴びました。全国の多くの原発でプールの貯蔵能力が限界にきており、これから大量の使用済み核燃料が、青 森に搬送されます。「再処理工場は化学爆発を起こす可能性が高く、非常に危険。処理で出た高レベル放射性廃棄物は地下に埋めるが、放射能が減る数万年後ま で、だれが管理するのか」と危機感を強めます。
 一四基の原発が立地し、“原発銀座”と呼ばれる福井からは、光陽生協病院の奥田顕治さん(放射線技師)が報告。福井民医連の職員は「原発問題住民運動福 井県連絡会」の代表と事務局長を担っています。奥田さんは「すべての原発の近くに活断層があります。頻繁に事故を起こす高速増殖炉もんじゅはすぐに廃炉に し、高浜原発の危険なプルサーマル発電も中止すべき」と訴えました。

医師と研究者の講演

 元静岡大教授の深尾正之さんは「原発の燃料になるウランの埋蔵量は、あと一〇〇年しかもたない。今後は太陽光発電を中心に、再生可能エネルギーに切り替えていくべき」と強調しました。
 生協きたはま診療所(静岡)の聞間元所長は「放射能から身を守る行動は人権を守るたたかいそのもの。民医連をはじめ大勢の専門家集団を組織し、その力で 福島へ除染ボランティアを組織できないだろうか」と提案しました。
 光陽生協病院の平野治和院長は「原発事故を収束するうえで、そこで働く労働者の健康管理がカギを握るが、原発労働者の基本的人権が守られていない。東電 任せではなく、国の責任で被曝線量を管理すべき」と話しました。
 広島大の星正治教授は、広島の黒い雨や旧ソ連のセミパラチンスク核実験場(現カザフスタン)の放射線量を測定した経験から福島の被曝実態を考察。今年八 月には、福島県内を細かく調査した汚染マップが完成することを明らかにしました。

県連への行動提起

被ばく問題委員会

●原発問題学習パンフレットの普及と学習会開催
●脱原発の署名や政府への要請にとりくむ
●地協や県連で原発や核燃料サイクル施設を視察
●緊急被曝事故対応マニュアルの学習と事故時の対応方法をシミュレーション
●原発立地の県連は自治体と交渉し安全対策と危機管理の情報を把握し公開
●以上のとりくみを恒常的に行うため、県連で被ばく問題や原発問題にとりくむ委員会を設置

 

被ばく問題交流集会の演題と報告者(敬称略)

【18日 公開シンポジウム】
◆問題提起

 小西恭司(全日本民医連緊急被曝事故対策本部長)
◆シンポジウム
・「福島第一原発事故から何を学ぶか、日本のエネルギー政策の転換を」
 深尾正之(元静岡大学教授、日本科学者会議京都支部)
・「周辺地域の住民のいのちと暮らしをいかに守るか」
 聞間元(生協きたはま診療所所長、前被ばく問題委員長)
・「いかに原発労働者の健康を守るか」
 平野治和(光陽生協病院院長、福井民医連会長)
◆現地からの特別発言
 松本純(福島民医連会長、生協いいの診療所所長)
 佐藤八郎(飯舘村共産党村議)
 郡俊彦(南相馬市農家)
◆基調報告
 藤原秀文(被ばく問題委員会委員長)

【19日 交流集会】
◆講演「原爆症認定集団訴訟の経過と残された課題」
 宮原哲朗(弁護士、原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会事務局長)
◆記念講演「広島原爆、セミパラチンスク、福島などの汚染の影響」
 星正治(広島大学原爆放射線医科学研究所教授)
◆指定報告
・青森「六ヶ所村核燃料再処理施設の現状と今後の課題」
 横濱正幸(あおもり協立病院・放射線技師)
・福井「福井県内の原発の現状と今後の課題」
 奥田顕治(光陽生協病院・放射線技師)
・広島「原発よりも命の海を 上関原発建設反対のとりくみ」
 青木克明(広島共立病院・医師)

 

求めたのは正義

原爆症訴訟と原発事故宮原哲朗弁護士

 原爆症認定集団訴訟全国弁護団連絡会の宮原哲朗事務局長が、被ばく問題交流集会で「原爆症認定集団訴訟の経過と残された課題」と題して講演しました。要旨を紹介します。

 原爆症認定集団訴訟は、三〇六人の被爆者が原告になり、二〇〇三年以降全国一 七裁判所で提訴、現在まで二八回勝訴しています。直爆だけでなく、遠距離被爆や入市被爆の原爆症を認めるよう国に求めた裁判です。判決では、がん以外に三 〇超の疾病が長期間経ってから発症することが認められました。今後、原発事故の被害を考えるうえで参考になるでしょう。
 集団訴訟における厚労省と原告の対立点は、「放射線の人体への影響」の考え方の違いです。厚労省は科学的に解明されていないものはすべて認めない立場。 私たちは放射線の影響は未解明だということを前提に、その被害を解決していこうという立場です。裁判では意見書の執筆や法廷での証言など、民医連の医師の 方々に全面的に協力していただきました。この場を借りて、お礼を申します。
 集団訴訟の原点は「被爆者の怒り」です。集団訴訟以前に原爆症の認定を却下された松谷英子さんが提訴し、最高裁で勝訴しました。ところが、厚労省は判決 を無視しました。遠距離、入市の被爆者は切り捨て、がん以外の疾患は認めない厚労省の基準に怒ったわけです。
 交渉の席で厚労省は「松谷さんはお気の毒でした」と言いました。「お気の毒」とは、自分たちとは無関係な天災などに遭った人に対する慰めの言葉です。被 爆者が裁判で求めたのは同情や哀れみではありません。「正義」です。核兵器廃絶という人類共通の課題に向けた正義です。
 国は「戦争被害を国民は受任すべき。だから、被爆者も受任せよ」との考え方です。原発事故にも「“想定外”の津波による天災」との考え方が根強くあります。天災論は責任の所在を曖昧にします。
 被爆者は国家補償に結びつく被爆者援護法を求めています。原発事故でも責任の所在を明確にし、謝罪と政治表明を前提とした補償や検診などの施策を求めていくことが重要です。
 不十分とはいえ、被爆者は援護法をもっています。医療費は無料で、健康管理手当という一定の給付もあります。原発被害でもしっかりした法的枠組みがない と、国は「この病気は放射線と無関係」と、被害者を切り捨てていくと思います。
 法や援護施策を作ったのは被爆者の運動でした。運動の基本は核兵器廃絶で、その点が多くの国民の理解を得ました。被爆者は厚労省前に何度も座り込み、勝 ち取った法律をどんどん進化させ、法解釈も有利な形に引き寄せてきました。こうした継続的な運動により、現在の被爆者の地位が獲得されました。法律は力関 係と運動の中で、解釈が変わります。原発事故の補償でも、今後、運動の力が必要になるでしょう。

(民医連新聞 第1504号 2011年7月18日)