相談室日誌 連載329 地域ネットワークなしでは進まない高齢者支援 新妻聡(茨城)
Aさん(六〇代後半・男性)は東京の大学を卒業後、広告代理店で働いていました。四五歳で独立し、会社を興すが失敗。妻子とも離婚して連絡が取れなくなりました。
定年後は大阪など各地を転々とし、茨城に来た時にはホームレス状態でした。その時、Aさんを保護したのは、教会の牧師さんでした。牧師さんはAさんのア パートの身元保証人や年金受給手続きなど、様々な面で支援しました。
私たちに牧師さんから相談が寄せられた時、Aさんは糖尿病や高血圧の内服薬の管理がうまくできず、幻視が現れ、せん妄状態になっていました。かかりつけ の精神科へ入院の相談をしましたが、満床で入院できませんでした。また、市の養護老人ホームへの短期入所も、幻視症状が出ていては受けてもらえず、やむを えず自宅療養を続けることになりました。牧師さんが通院や買い物、アパートの住人が部屋の片付け、見守り、安否確認などの支援を行い、病状は安定しまし た。
その後、本人にも公的サービスを使う意志がうまれ、介護保険を使うことになりましたが、今度は介護保険料の滞納が発覚。介護保険には国保のような減免制 度がありません。滞納は二年、支払期限も迫っていました。このままだとペナルティーで介護保険の利用料が三割負担になるため、計画的に返済することを条件 に、牧師さんが全額を立て替えることになりました。
介護保険を利用しはじめてからも、Aさんは頻回に体調を崩し、本人もひとり暮らしが難しいと認識しました。改めて市に相談し、養護老人ホームへ入所しました。
いま、介護保険制度で、「地域包括ケアの推進」が大きく提示されています。高齢者ができる限り地域で生活していくためには、公的な支援だけでなく、地域 住民も含めたネットワークの中で、専門職と地域住民が共同して支援することが必要になります。
しかし、地域とのネットワークづくりはあまり進んでいないのが現状です。高齢者が地域で安心して生活していくために、積極的にこの課題にとりくんでいきたいと考えています。
(民医連新聞 第1502号 2011年6月20日)