フォーカス 私たちの実践 山梨・共立歯科センター 院所全体でとりくむ障害者歯科医療
第一九回歯科学術・運動交流集会での発表を紹介します。今回は障害者歯科医療の改善について。歯科衛生士の守家美生さんが報告しました。
共立歯科センターは開設して三六年です。現在、月間で三〇人の心身障害者が受診しています。静脈内鎮静法(IVS)による治療や、絵カードを用いた治療受け入れトレーニングなど、個々の障害の特性に合わせた治療に努めています。
しかし、忙しい診療室で一般の患者と混じった中で、人員体制の不十分さもあり、ヒヤリ・ハットになる事例もありました。職員の障害に対する知識にもあい まいな点があり、記録書式もバラバラ、などの課題もありました。そこで、学習会や統一記録用紙の作成などの改善にとりくみました。
予約と診療 体制の調整
まず診療の予約と体制を調整しました。それまで予約は医事課に任せており、診療室では把握していませんでした。これを変え、予定表を作り、いつ誰の予約が入って、診療室で必要な体制は何か、準備しておくことは何か、など一目でわかるようにしました。
併せて、統一した記録用紙や同意書などを導入し、その使用を徹底しました。
(1)「静脈内鎮静法処置記録用紙」…従前は口頭で確認していましたが、導入後は実施上の留意点が明確になり、処置中・処置後の注意点の引き継ぎが確実にできるようになりました。
(2)「同意書」…家族にリスクを理解してもらうと同時に、職員がIVSの危険性を再認識する上でも役立ちました。
症例をもとに多職種で学ぶ
また、職員が障害者歯科医療に対する知識を深めるため、学習会を行いました。 多職種が学べるよう留意し、図書も購入。事例にもとづいて、疾患の特性や障害についての知識と対応を学び、意見を出し合い、対応法を検討しました。患者さ んが暴れた時の接し方が分かり、職員のケガがなくなりました。
症例を報告します。
Aさんはコルネリア・デ・ランゲ症候群です。他害があり、手が反射的に出てしまいます。そこで、タオルケットに包んで診療しています。このほうが人に抑 えられているより威圧感がなく本人のストレスが軽減します。治療もスムーズになりました。
Bさんは精神発達遅滞です。診療室に入ることができないため、エレベーターホールでのIVSになりました。そこは拒否行動が出ない場所です。ホールから 診療室へは技工士さんの手を借りて車イスで移動しました。
Cさんはダウン症です。身長一五〇センチ、体重八六キロという巨漢です。歯科受診に慣れないため拒否反応が強く、入口で寝そべってしまい待合室に入れま せん。多職種の協力によりマンパワーを結集して床に寝かせてIVSを行いました。
Dさんは精神発達遅滞です。コミュニケーションが難しく、日常でも座ることが少なく、歯科受診でも座りません。筋肉質で力が強く、施設と歯科の職員が協 力して抑え、IVSを行い集中治療を行いました。施設職員はこの機会に普段できないDさんの爪を切ります。
(なお、現在は患者抑制具の「パプーズ・ボード」を導入し、抑制に何人もの手を取られずに安全性を高めて治療をしています。)
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そのほか、友の会の会員さんが見守りボランティアとして協力してくれ、待合室で楽しく過ごすことができます。
障害者の症例をもとに職員間で問題を出し合い、院所全体で改善にとりくみ、安全・安心を向上させることができました。今後も障害者の歯科治療と疾患予防 に努め、同時に障害者を取り巻く社会保障の改善運動もすすめたいと思います。
(民医連新聞 第1501号 2011年6月6日)