国保 再生のために (6)国保法44条の適用 県審査会へ不服審査請求 生活費算出方法の誤り正す 尼崎市
国保は社会保障のはずです。経済的に困難な人に対する救済制度もありますが、課題は使える制度に変えること。国保法四四条(窓口一部負担金減免)の適用に向け、兵庫県尼崎市の尼崎医療生協はこの間、ねばり強くとりくんでいます。同法人の杉山貴士さんの報告です。
尼崎市には国保法四四条適用に関する要綱がありますが、制定されて六年、一件 の適用しかありません。要綱の適用基準は、(1)災害、失業ほかの理由で収入が著しく減少し、(2)資産すべての活用を図り、(3)三カ月で治癒する傷 病、(4)保険料の滞納がない(分納の場合は完納の確約が必要)、の四点です。もともと低収入の人の場合、「著しく収入が減少」すれば生活は破綻します。 「資産活用」についても生活保護よりも厳しく審査されたため、適用される人がいないのが現状でした。
尼崎医療生協病院のSWが、次のような患者の代理人として国保法四四条の適用を申請しました。五〇代、男性のAさんです。Aさんは骨折で同院にかかりま した。前月に会社が倒産し、失業給付だけで生活していました。「収入の激減」、「短期で治癒する傷病」など、四四条が該当するはずでしたが、尼崎市の出し た結果は不承認でした。
市はAさんの生活費を保険料や税を控除せずに算出し、その額を根拠に「窓口一部負担金の支払いは可能」としたのです。SWは「なぜ保険料や税を控除しな いのか。要綱は生活保護基準で判断しているが、Aさんは生保受給者ではない。保険料や税を払っている」と指摘し、県国保審査会へ不服審査請求を提出しまし た。
県審査会とは弁明書や反論書が何度もやりとりされました。その過程で市は生活費算出方法の誤りを認め、公租公課を控除したものを生活費とするとしまし た。しかし、所持金が生保に定める基準生活費の二分の一(当該患者の場合は五万円弱)以上の場合、四四条は適用できない、などの条件を明らかにしました。 市は生活費算出の誤りは認めましたが、次の不承認理由を、当初の書面にはまったく記載がなかったAさんの預貯金額に切り替えてきました。
県審査会は私たちの請求を棄却しました。「家屋等の資産保有があれば売却することを原則とする」と、要綱には書かれていない市の弁明まで認定したのでした。
棄却こそされましたが、この不服審査請求の過程で多くのことが明らかになりました。要綱の誤りも改善することができました。
そして今年度、尼崎市は国保法四四条に関する予算七〇〇万円を計上しました。尼崎医療生協が二年前から始めた無料低額診療事業によって可視化された「格 差と貧困」の現実、そして県審査会を通してねばり強く続けたやりとりの一部が形となりました。
たとえ小さな積み重ねであっても、その人の抱えている問題にしっかり向き合うことで、少しずつ社会を変えていくことはできる。国保法四四条適用に向けた たたかいは、小さな積み重ねが大きなうねりをつくり出したと感じています。
(民医連新聞 第1499号 2011年5月2日)