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民医連新聞

民医連新聞

無低診よりどころに 医療受ける権利、広げよう

 全日本民医連が実施を呼びかけている無料低額診療事業(無低診)。民医連事業所では、四月二〇日現在で二一五カ所。「お金がなく て医療にかかれない」という人のよりどころに、また、潜在する貧困を掘り起こすきっかけにもなっています。いま注目したいのは、この制度から受療権を守る 流れをさらに拡大しようというとりくみ。事業の内容を学会で発表(滋賀)、地域の無低診実施医療機関の合同会議を開始し、就学援助世帯は審査なしで適用 (長崎)、無低診でカバーできなかった薬代を自治体が助成(高知)の、三カ所を紹介します。(木下直子記者)

県公衆衛生学会で発表事業で見つかる困難者 滋賀

 膳所診療所(滋賀)は二月に行われた滋賀県公衆衛生学会で、加藤健司事務長が「無料低額診療事業開始後の事例からみる受療困難の実態」の演題で発表しました(写真)。
 内容は、同診療所が無低診を始めた二〇一〇年一月から一二月までの一年間で適用したケースの特徴をまとめ、課題を投げかけるもの。
 二七あった申請のうち、二一件を承認。年齢別では二〇代から七〇代までいましたが、五〇代の層が最多。申請理由は多い順に「派遣切りなどで失業」「更生 施設入所中で無収入」「収入が低い」「年金額が少ない」「ホームレス」など。そして一番の特徴は、診療所に来た時に保険証がない人が半数以上いたことでし た。
 疾病は、高血圧、心臓病、糖尿病、外傷、ぜん息、栄養失調、急性疾患と続き、入院が必要だったケースは三人でした。
 「大手製造業を派遣切りされた五〇代の男性。市に相談に行ったが追い返され、塩や砂糖をなめ、水を飲んでしのいでおり、来院した時には痩せこけていた」
 「難病の妻と三人の子どもを抱えた四〇代男性。本人も重度の糖尿病だが、年収二五〇万円のワーキングプアのため、会社の休日にはアルバイトでダブルワー クをしていた。過労で倒れた」など、具体的なケースが報告されると、会場からは「うわぁ」と驚きの声も。
 二一件のうち、一一件を生活保護につなぎ、五件は国保証の取得を助け、一部負担金の免除制度を利用してもらいました。
 加藤事務長は滋賀県内で無低診にとりくんでいる医療機関が五カ所しかないうえ、三カ所が精神科病院であること、大津市では民医連の診療所二カ所しか実施 しておらず、入院対応ができない状況を紹介。「低所得者に医療を保障するためには、公的病院などが無低診にとりくむことや、低所得者の一部負担金の減免制 度を国や自治体の責任でつくることが急がれる」と述べました。
 座長からは「大事な問題。引き続き積み上げて、公衆衛生の角度からも切り込んで来年も発表してほしい」とのコメントがありました。

中学校長が生徒の相談

 膳所診療所の場合、無低診の申請が行政に受理されるまで二年がかりでした。開始が決まると所長の東昌子医師は、制度を知らせ、利用を促す訪問へ。診療所が校医や園医を務める小学校や保育園、民生委員の集まりにも足を運びました。
 反応は、その場で対象世帯が出されたり、中学校の校長が無保険の生徒のことで診療所に相談に来るなど予想以上のものでした。
 「無低診を始めてから、把握できていなかった困難な人を見つけている、と実感している」と加藤事務長。受刑後の社会復帰が目的の更生保護施設が近所に あったことも、入所者は施設にいる間、無収入・無保険で、病気になっても医療機関にかかれずにいたことも相談を通じて判明。
 「県の学会で発表したのは、民医連外の医療機関にもこの事業を広げたいとの考えがありました」と加藤事務長。「無低診は慈善事業みたいなものですから、 これでとどまっていたら自己満足やないか? だから、この事業をきっかけに、医療を受ける権利自体を広げたいのです」。

全国初、薬代を市が全額助成 高知

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調剤処方費用助成申請書

 無料低額診療事業の問題点は保険薬局が実施主体になれないことです。そんな中、高知市は無低診適用患者の薬代の助成を四月から開始しました。全国初の措置です。
 高知県で唯一の無低診実施機関として奮闘してきた潮江診療所(高知市)でも、院外処方の薬代が免除できないことは悩みでした。「医療費負担ができない患 者は、薬代も難しい。『所持金二円』という人もいました。とりくみに共感して地域から寄せられたカンパをあてるなどで対応してきましたが、なんとかしたい 問題でした」と同診療所の岡村啓佐事務長。
 診療所では、行政へ事例報告を行うなど医療と貧困の実態の発信を続けてきました。結果、薬代助成として五〇万円が高知市の二〇一一年度予算に計上されました。
 無低診適用の無保険患者が対象で、生活保護など次の制度につなぐまでの二週間という期限つき。「十分とは言えないが、全国初の措置で意義は大きい」と岡村事務長。
 対象患者は市が委託した薬局へ。薬局は無低事業所の処方せんと「調剤処方費用助成申請書」で市に請求すれば、患者負担分が受け取れます。同市は「国がや るべきことだが、低所得者の窮状は見過ごせない」と語っています。

■子どもの無保険問題でも

 無低診を通じ、市内の無保険の子どもの存在もあぶり出されました。市議との連携で、乳幼児は一八〇人、小中学生で少なくとも一二三人という数が判明。行政も対応に乗り出すと答弁しています。

就学援助世帯は審査不要 長崎

 長崎県では、県内で無料低額診療事業を行っている医療機関(四法人)の「合同会議」が年明けから始まっています。制度活用を広げることが目的です。
 二〇〇九年九月から、上戸町病院(長崎民医連)などで事業を開始。とりくみ内容を記者会見などで意識的に発信する中で、地元新聞などメディアがとりあげ るようになりました。そんな中、無料低額診療事業を実施していた済生会から、合同会議がもちかけられました。
 「法人ごとで適用基準は違うが、連携ができないか?」「実施していない医療機関に理解を深めてもらうには?」「精神科の実施機関がなくて困っている」など意見交換をしています。
 合同会議の申し合わせで、事業の運用にも工夫が始まりました。申し合わせは【「就学援助」を受けている世帯は、その「支給決定通知書」をもってただちに 無低診適用。審査は不要】というもの。適用のハードルを下げる新しいルールです。
 就学援助は、経済的理由で就学困難な児童や生徒の家庭に、国と地方公共団体が学業に関わる諸経費を援助する制度。申請の際に、教育委員会が世帯の所得証 明を確認し、生活保護基準の一二〇%以内であると認めて就学援助を決定しています。医療機関の審査の実務も軽減されます。

誰もが必要なときに受診できる医療制度を

全日本民医連 今井晃次長

 無料低額診療事業を行っている民医連事業所は、三五都道府県・二一五カ所。六府県・一〇〇カ所足らずだった二年前から倍増しました。室料差額をとらないことと併せ、無低診は民医連の象徴的なとりくみとして注目されています。
ただし、私たちのがんばりも全国の状況からみれば部分的なものです。人口一〇万人あたりの無低診実施医療機関数は全国平均〇・三八カ所、最高が京都の一・ 八二カ所(表)にすぎません。実施医療機関を広げるためには、資金面や実務などの負担を軽減する措置が必要です。
また、自治体立病院の多くが設置に関する条例などで、医療費の減免措置を定めていますが活用実績は不明です。自治体立病院に無低診実施を働きかけると同時に、この制度の活用にも注目したいと思います。

 無低診が必要とされる背景には、医療の窓口負担が高すぎることや、国保法四四条が定めた医療費窓口負担減免が実行されていない現実が反映しています。誰もが必要な時に受診できる医療制度を求めて、運動を続けましょう。

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(民医連新聞 第1499号 2011年5月2日)