原発事故 出口見えない避難者 全日本民医連が福島で調査
全日本民医連緊急被曝事故対策本部は三月二七日、福島民医連とともに福島県内の自治体や避難所を訪ねました。職員や被災者から原発事故への不安を聞き取り、津波被害の現場も調査しました。(新井健治記者)
現地調査団が訪れたのは、医療生協わたり病院、生協いいの診療所(以上福島市)、小名浜生協病院(いわき市)の民医連事業所や、南相馬市、いわき市と両市内の避難所や病院です。南相馬市では桜井勝延市長や高橋亨平市医師会長と懇談しました。
福島県は地震・津波・原発事故に加え、風評被害のただ中にあります。中でも南相馬市は福島第一原発から「避難」「屋内退避」「指示なし」の三つに市域が 分断され、市民七万人のうち約四万人が市外に避難するなど混乱。津波に襲われた沿岸部には多数の不明者がいるはずですが、放射能の影響で捜索ができませ ん。多くの商店が閉まり、風評被害で物流が滞っています。避難所には一定の支援物資がありますが、自宅退避の高齢者にはなかなか届きません。
市民は孤立した町で、目に見えない放射能の恐怖に耐えています。市内の入院患者は全員市外に避難したものの、多くの医療機関は機能停止で、自宅や避難所 で慢性疾患の悪化が心配されます。桜井市長は「いつになったら原発事故が収束するのか、出口が見えない。見通しが立たない限り、街の復興もあり得ない」と 訴えます。
市内の避難所では、住民が原発事故への不安を口にしました。七一歳の農家の女性は九六歳の寝たきりの母がいるため、市外へ避難できません。子ども夫婦と 孫は須賀川市に避難しており、家族はバラバラです。「四月なのに田植えのめどが立たない。生活が成り立ちません」とため息をつきます。
福島県連の原点を確認
調査後に緊急被曝事故対策本部と福島民医連の合同会議を行いました。県連の松本純会長は「今日、あらためて、二〇〇万県民のいのちを守る福島民医連の原点を思い起こした。南相馬市など民医連の拠点がない地域でも、全国の仲間とともに支援にとりくみたい」と話しました。
わたり病院の齋藤紀(おさむ)医師は、避難指示解除で住民が戻ってきても、医師が戻らず無医地区が出てくることも予想されるとし、「その時には民医連が 診療の拠点をつくることも視野に入れるべき」と話しました。
また、県連の事業所には被曝の不安を払拭できない職員がおり、そのうち数人が出勤できていない実態も報告され、「職員が避難したいと訴えてきた時は、ど う応じればいいのか?」と質問した管理者もいました。齋藤医師は「放射線障害を正確に知り冷静さを取り戻すとともに、出勤できない職員を温かく待つ柔軟な 姿勢もあっていい」と答えました。
全国の避難所で支援を
原発事故避難者は福島県の隣県にとどまらず、全国に広がっています。民医連の 事業所の一部で避難者の線量チェックをしたり、「被曝医療の専門家ではないから」と敬遠するケースもありました。対策本部は「全国の各県連で避難者の気持 ちに寄り添い、積極的に支援しよう」と呼びかけています。
「遺体を置いて行けない」と市内にとどまる患者も
南相馬市医師会 高橋亨平会長の話
三月二二日に自院(原町中央産婦人科医院)で診療を再開しました。産科、婦人 科と内科を診ています。薬がなくなり、一錠を三日分に分けて飲んでいた患者がいました。ふだんは一三〇だった血圧が、避難所にいることで二〇〇を超えてい た患者もいて、つくづく危険な状態に置かれていると思いました。
原発事故の影響で不明者の捜索がすすんでいません。大勢の患者が市外に避難しましたが、一方で市内にとどまる人もいます。聞けば「遺体を置いて遠くへは 行けない」と言います。あきらめきれないのです。
家族の強い要請で私もいったんは市を離れました。でも、「自分はなんのために生きているのか」と悩み、苦しみながら戻ってきました。いっしょに働いてく れる診療所職員の姿を見ると、胸が痛みます。言葉にはしませんが、動揺はあるはずです。
物資が届きません。薬は自衛隊が運んでくれますが、「一カ月分ほしい」と患者に言われても二週間分しか出せません。ガソリンがなく、外出できない高齢者は自宅でひもじい思いをしているはずです。
先日、血圧が測定できないほど上がってしまった在宅の高齢者を診療しました。今後は診療所や避難所に通えない在宅患者が心配です。今が踏ん張り時。こう いう時こそ連帯が大切で、民医連にも期待しています。
医療支援に影響ない値
放射線現地調査
三月二七日の現地調査で、サーベイメータ(放射線測定器)を使って東北自動車 道や福島県内の放射線量を調査しました。線量が最も高かったのは福島第一原発から約六〇キロ離れた福島市内の雪で、一一マイクロシーベルトでした。原発か ら三〇キロ圏内の南相馬市は一・二マイクロシーベルトにとどまりました。
測定した埼玉協同病院の雪田慎二副院長は「原発から二〇キロ以上離れると、放射能汚染については同心円状に拡がるわけではないことがわかる。いずれにし ろマイクロシーベルトのひと桁前後で、生活支援や医療支援が困難になるレベルではない」と指摘します。
測定結果 館林IC(群馬県館林市)0.7 |
(民医連新聞 第1498号 2011年4月18日)
- 記事関連ワード
- 生協