相談室日誌 連載325 地域の居場所は… 丸山あさ美 (静岡)
外来から「三日間食事を取っておらず、倒れた人がいる。入院が必要だが医療費を払えないと言っている。対応してほしい」と依頼があり、Aさんとかかわり始めました。
Aさん六〇代、男性一人暮らしです。高校卒業後、タクシー運転手の仕事に三〇年以上就き、退職。年金生活をしていました。五年前に喉頭がんの手術を受け ており、コミュニケーションは筆談です。また、白内障で視力障害があります。外出は買い物以外せず、内服薬が必要でしたが、中断していました。弟が遠方に いますが日常的かかわりはなく、本人は「迷惑をかけたくない」と連絡を拒否。心を打ち明け、相談できる人も「いない」とのことでした。
入院費のことではAさんと相談し、国保の窓口負担の減額認定証の発行や、四四条の申請を行いました。また今後のことを考え、本人を説得し弟にも連絡しました。
入院で体調が改善したので、退院に向けての調整が始まりました。白内障もあり、自宅に戻るには不安が大きいものでしたが、Aさんには「何が何でも家に帰 りたい」という強い希望がありました。そこで、Aさんの退院をめざし、院内スタッフのカンファとともに、地域包括支援センター、障害福祉課、社会福祉協議 会などと協議し介護保険サービスの利用につなげました。弟は、積極的なかかわりはできないものの、緊急の連絡先になってくれました。
現在、ケアマネジャーや、在宅サービス事業所にささえられ、Aさんは自宅での生活を続けています。近所の人たちも、サービスが入ったことで安心し、Aさ んと接するようになりました。Aさんいわく「おふくろの味」の差し入れもあるようです。他の病院で白内障の手術も無事に終わり、視力が改善しました。Aさ んは、「みなさんのおかげです」と手を合わせます。
入院時には、社会から孤立していたAさん。入院をきっかけに、社会制度を活用し地域・人とのつながりができました。一人暮らしで、家族支援が薄い中、こ れからも介入が必要になるかもしれません。その際にも、本人や地域の力を信じて援助していきたいと思います。
(民医連新聞 第1498号 2011年4月18日)