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民医連新聞

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放射線障害とは何か 現段階では心配ない急性障害 冷静さ取り戻し復興に全力を 齋藤紀(おさむ)医師(わたり病院・福島市)

 医療生協わたり病院(福島市)の齋藤紀医師は、科学的知見に基づいた正確な情報を県連内外で発信し、職員や住民の被曝への不安の 解消に努めています。齋藤医師は二年前まで、広島市の総合病院福島生協病院で原爆被爆者の治療に当たり、被爆者の医療に詳しい専門家です。「現段階では被 曝による急性障害は心配ない。冷静になって被災者の支援を続けてほしい」と話します。

 被曝による放射線障害には「急性障害」と「晩(ばん)発(ぱつ)性障害」の二 種類があります。急性障害は強い放射線で細胞が大量に死滅することによって生じるもので、白血球減少や脱毛などさまざまな症状が数日から数週間で発症しま す。現在の放射線量では、一般住民にとって急性障害の心配はまったくないと言い切っていいでしょう。
 原爆被爆の場合、初期放射線(ガンマ線、中性子線)は一キロメートル離れると一〇〇〇分の一、一・五キロメートルで一万分の一、二・五キロメートルで一 〇万分の一に減りました。原発事故に比べ放射線量が桁違いに大きい広島の原爆でも、三・五キロ以遠には届きませんでした。
 今回の原発事故で問題になるのは、風で運ばれる放射性物質の汚染による内部被曝、そして晩発性障害です。晩発性障害は数年後から数十年後に発症するがん などの症状で、急性障害と違い、低線量でも発症する可能性があります。ただ、広島・長崎の被爆者調査の経験からは、現段階ではそのリスクも低いと思いま す。
 外部被曝の原爆被爆者の場合、一〇〇〇ミリシーベルトの被曝でがん発症率が四七%増加したことがわかっています。内部被曝の場合と異なりますが、一つの 参考として考えることができます。このデータに当てはめると、福島県内で総線量一ミリシーベルト(一〇〇〇マイクロシーベルト)を浴びた場合、〇・〇四 七%の増加となります。
 したがって、晩発性障害のリスクはまったくないわけではありません。ただ、現在はがん検診などで早期発見が可能で、こうした障害にも対処することができます。

健康管理と生活支援にギアチェンジしよう

 福島第一原発から約六〇キロにあるわたり病院でも、事故当初は「ここに、とど まっていて大丈夫だろうか」と多くの職員が不安を感じていましたが、ていねいに放射線障害を解説しました。原発から約五四キロ離れた小名浜生協病院(いわ き市)や福島市災害対策本部でも講演し、「冷静さを取り戻し、復興に全力を挙げてほしい」と呼びかけました。市役所での講演内容は、地元FM局で放送され ました。
 当院のある福島市内の避難所は約三〇カ所で、原発立地の双葉町、大熊町から避難してきた患者も受診します。事故から一週間は被曝の有無をトリアージしま したが、一八日以降は一般の患者と変わらず診療しています。今は患者の健康管理と生活支援にギアチェンジすべき時です。
 診療の合間をぬって避難所を訪れ、避難者の被曝の不安にも応えています。不安な気持ちがいけないわけではなく、こうした情勢では不安こそが正常な反応で す。頭ごなしに「パニックになるな」と言うのではなく、気持ちに寄り添い対話をすることが大切です。晩発性障害のリスクを含めて説明しなければ、本当に安 心させることはできません。
 他県から支援に入る民医連職員の間でも一定の動揺がありますが、現在の指示を守れば、特別に危険な状態にはなりません。岩手や宮城へ行くのと同じと考えてもらって構いません。
 患者の慢性疾患の管理が、今後の大きな課題です。原発事故に対する不安はわかりますが、今、何より急がなければならないのは医療や生活再建など具体的な支援です。

齋藤医師と聞間元医師が被曝を解説する動画が、全日本民医連のホームページで視聴できます。トップページから「東日本大震災」の動画ニュースをクリックしてください

(民医連新聞 第1497号 2011年4月4日)