第19回歯科学術・運動交流集会ひらく 患者のための“技術”学び合う
第一九回全日本民医連歯科学術・運動交流集会を二月一九~二〇日、東京で開き、歯科医師九九人、歯科衛生士一二八人、技工士二九人など計二九八人が参加しました。
テーマは「誰のための技術か」。五つの分科会と三つのテーマ別セッションを合わせ口演が一〇二題、ポスターセッション三六題が発表されました。患者さんに寄り添う中で集団的に創られている民医連歯科の技術を発表し合い、意見交換しました。
今回、若い職員たちが学び合い、意見を交換する企画が組まれたことが特徴です。分科会、テーマ別セッションは、技術的な課題と「高齢者」「貧困・格差な ど患者の社会背景」「地域・保健」「経営や事業所内システム」「養成・研究」などを結びつけて考えるテーマ設定でした。
平尾雅紀さん(北海道勤医協中央病院・内科医)の記念講演の後には、平尾さんへ四人の青年職員が質問する座談会が行われ、参加者も交えて活発に対話しました。
講演会から――
「人間の生活全体をみる歯学 民医連歯科の中で発展している」
平尾さんは早期胃がんの画期的な治療法を一九八七年に開発し、二〇〇七年に日本消化器内視鏡学会・崎田賞を受賞しています。講演テーマは「患者さんへの思いが生んだ技術~ERHSE」(※1)。技術が完成するまでの歩みと民医連医療の特質とを重ねて語りました。
「私の話が役立てばうれしい」と話を始めた平尾さん。講演にあたって、あらためて歯科関係の本を読み、「チーム医療」がどう扱われているかを調べたといいます。
教育内容ガイドライン(〇七年度版)には、「チーム医療は外科手術のときに必要だ」と一言だけ。「日本では消極的な位置づけだが、欧州では位置づけが大 きく、教科書にも多くのページが割かれている」と指摘しました。
また、「哲学、生物学、社会科学、経済学まで含め、人間の社会生活全体から歯学をみる」という考え方は、一九七五年に出版された『歯科概論序説』(総山 孝雄著)にあるが、残念ながら、その後三五年間、歯学教育の中で発展していないように思えるとのべました。一方、欧州の本には、「口腔の保健と社会格差の 問題」をはじめ、歯科医師が身につけるべき「臨床・技術・科学・対人・管理・倫理・政治など幅広い知識や資質、物事の考え方」について記載があることを示 しました(※2)。
そして、「こういう考え方と実践は民医連歯科の中で発展しており、まさに今、民医連歯科の出番の機が熟している」とのべました。
患者の悩みから出発
世界的に注目されるERHSEが生まれた出発点は「患者の立場にたつ」ことで した。「胃がん術後の患者が、どんな後遺症で悩んでいるかを数次にわたる調査で徹底的に明らかにし、自分たちの医療の問題点を浮き彫りにし、その克服を課 題とした」。その課題を数十年にわたって追求する中では、「他職種とくに看護師といっしょに、学習会を重ねて、理解者を増やしながらとりくみ、成果は必ず まとめて発表することを大切にしてきた。達成感があると人が育つから」と明快です。
「成果が患者に還元されるのを見ることは医療に携わる者の最上の喜び。わくわくしながら診療に携わってほしい。考えるだけでなく、一歩を踏み出して」と 呼びかけました。
※1 ERHSEとは、HSE局注(高張ナトリウムエピネフィリン液=止血作用のある薬液)を併用し、内視鏡下で早期癌の病変部を切除する方法。
※2 『歯科医療 人間科学へのいざない』G.Kent、R.Croucher著
(民医連新聞 第1496号 2011年3月21日)