国保 再生のために (4)受信抑制 “悔しい死”71人 国保など死亡事例調査―全日本民医連
全日本民医連は三月二日、「二〇一〇年国保など死亡事例調査」を発表しました。民医連の加盟事業所にかかった患者で、経済的な困 窮が原因で手遅れ死亡したとみられた事例報告は二〇一〇年の一年間で七一件・二四都道府県で発生しています。調査を始めた〇五年以降最悪の数字です。(木 下直子記者)
調査の期間は二〇一〇年一~一二月末までの一年間です。
(1)国保料滞納などで正規保険証を失った、または無保険状態にあった、(2)正規の医療保険証は持っていたが窓口一部負担金が払えなかった、のいずれ かの事情で、持病があったり体調不良を感じながらも医療機関にかかれず、手遅れ死亡した事例を調査しました。
事例数は最多
保険証あった…前年の3倍
報告事例は調査開始から増加の一途。無保険も最多でした。
年代・性別の特徴は、五〇~六〇代男性が全体の六割。この傾向は例年変わっていません。最年少が三二歳、最高齢が八一歳でした。
疾病別で圧倒的に多いのが悪性腫瘍、ついで糖尿病でした。
正規保険証を持っていたが、窓口負担の問題で、手遅れになったのは二九例で、前年比の約三倍にも。このうち三人いた後期高齢者は「がん治療が続けられな かった」という点で共通。正社員の事例は三件で全員タクシー乗務員。これは前年調査でも同じでした。
報告書から
寄せられた報告書には、体の異変や痛みにも「お金がない」と耐え続けたようすが記されています。
最年少の三二歳男性は二〇一〇年年明けに救急搬送されてきました。「口渇、多飲、多尿、嘔吐がひどく食べられない」と訴えました。診断は糖尿病性ケトアシドーシス。入院一〇日後に死亡しました。
この男性は重症の喘息で高校中退後、非正規労働に従事、ネットカフェ生活をしていたが貯えがなくなり、生保受給中の父親のもとへ。そして搬送に。それまで医療保険に加入した形跡はありませんでした。
正規雇用の例。六一歳のタクシー乗務員は無年金で、家賃を分割払いするほど困窮していました。体調不良を自覚しつつも受診できず、乗務を続けました。痛 みに耐えきれず受診した二週間後に死亡。末期の膵臓がんでした。
手遅れ死亡なぜ
調査した全日本民医連・国民運動部では、結果について「雇用環境の悪化で困窮 者が増加する一方、国保料は値上げされている。『高い保険料』と『重い窓口負担』が、手遅れ死亡を生んでいる」と指摘。あわせて、保険料滞納者への納付強 要や、差し押さえなど、国保窓口の問題にもふれました。
窓口負担の重さは、悪性腫瘍や糖尿病の事例の多さが示しています。いずれも治療期間が長く、治療費が高額になる疾病です。
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会見翌日、民医連にこんな電話が。新聞で死亡事例の記事を読み「(七一人なんて)ウソを言うな」とたいへんな剣幕でした。「金がなく受診できずに死んだ人 をもっと知っている。自分も治療できていない」。
民医連の外で発生している手遅れ事例を想起させるものです。
全日本民医連の提言
調査報告とあわせ、民医連は次のような緊急提言もしています。
◇資格書・短期証発行の中止と全加入者への正規保険証交付、◇窓口負担の軽減、高齢者・子どもの医療費無料化、◇国庫補助を増額し保険料引き下げ、◇新 高齢者医療制度創設に関わる法律の国会上程の中止。
国民皆保険を保障するための国民健康保険が全面改定され今年で五〇年です。「悔しい死」に私たちはいつまで立ち会わねばならないのか、地方を変えるたたかいの中で、事例を手に問うときです。
北海道民医連が独自会見遺族も同席「お金なかった」北海道民医連は3月1日、道庁で記者会見。手遅れ死したAさん (61)の遺族が同席し、「もっと早く病院に行ければ良かったが、病院代がなかった。もう少し病院にかかりやすくなれば」と、悔しさを語りました。Aさん は非正規雇用、保険証だけは失わないよう、国保料を分納中でした。しかし窓口負担が重く受診をがまん。昨年6月ようやく来院した時には肝細胞がんが相当進 行した状態でした。 |
DATE■国保短期証・資格書、無保険…42事例 ■正規保険証…29事例 |
調査報告は、全日本民医連ホームページから入手できます。会見動画も視聴できます
http://www.youtube.com/watch?v=6OB6D4qAgGk
(民医連新聞 第1496号 2011年3月21日)
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