駆け歩きレポート 大雪の中 高齢者は? 寒冷地調査から 福井民医連 すきま風耐える89歳も背景に“経済的理由”
列島各地が例年にない大雪に見舞われた今冬。全日本民医連の寒冷地調査でも、全国各地から深刻な事例があがっています。1月末の大雪で約1000台の車が立ち往生するなど大きな被害を受けた福井県で、民医連の事業所を取材しました。(新井健治記者)
年金を節約したい
福井県北部の坂井市は、日本海に面した人口約九万五〇〇〇人の農村地帯です。 同市にできた初の民医連事業所が、小規模多機能型介護施設「しんじょういこい」。通い・泊まり・訪問を職員八人で担います。寒冷地調査では、六五歳以上の 独居などの世帯を訪問し、室温や生活ぶりを調べます。
対象者の一人、寺元マツイさん(89)は、築六〇年の自宅に一人暮らし。薄いガラス窓は木枠で、隙間から冷たい風が入ります。暖房は小さな電気ストーブ 一つだけで、室内は外気温とほとんど変わりません。
脳梗塞の後遺症で左半身が不自由なため、灯油ストーブは使えません。いこいの職員は何度もエアコンを設置するようにすすめましたが、「寒くない」、「夜 は七時に寝てしまうので、大丈夫」と強がります。言葉にしませんが、年金は月六万円ほど。節約したいという気持ちが痛いほどわかります。福井市に長男がお り、時々顔を見せてくれますが、経済的な援助は厳しいとのことです。
寺元さんの訪問介護を担当する職員は「五~六枚重ね着しており、背中に使いすてカイロを何枚も貼っている。低温やけどが心配です」と言います。
365日24時間対応できる
寺元さんは週に三回、いこいに車イスで通っています。「家ではテレビを見ているだけで、いこいに行くのが楽しみ。みんな、ようしてくれる。ありがたい」。一人では入浴できないため、いこいで職員の介助を受けて入浴します。
一月末の大雪の際は、午前六時から職員総出で事業所の雪かきをした後、寺元さん宅前の雪をどかしに行きました。猛暑の昨夏は、熱中症が心配でした。エア コンがないため、たびたび、いこいに泊まってもらいました。
寺元さんの例にみるように、暑さや寒さへの対応、食事や入浴など、三六五日・二四時間気くばりできるのが「小規模多機能型」の良さです。看護と介護が一 体になり、少人数の利用者に深くかかわります。いこいには高齢・独居・老老介護などで、生活全般に目配りが必要な利用者が数人います。
管理者でケアマネジャーの藤岡ひとみさんは、三〇年の看護師人生からいきなり介護の世界に飛び込みました。最初は看護師のプライドがじゃまをしていまし たが、やがて、この仕事に看護の原点を見つけました。
利用者の家族からも「いこいに通うようになって、認知症の問題行動が減った」「転ばなくなった」と、喜ばれています。昨年九月に家族会をつくり、介護の 悩みを交流しています。「利用者・家族・職員の垣根を越え、なじみの地域で暮らし続けたい高齢者を支援します」と話します。
病院併設でなく独立型のいこいの経営は厳しい状況ですが、民医連らしく、介護保険料の減免制度を住民とともに実現するなど奮闘しています。
気温2度、 室温5度
一月末の大雪は北陸でも三〇年ぶり。福井民医連の各事業所も大変でした。つるが生協在宅総合センター「和(なごみ)」(敦賀市)では、利用者宅からの帰り道に大雪による渋滞に巻き込まれたヘルパーステーションの職員が、車で夜を明かしました。
光陽訪問看護ステーション(福井市)では急きょ訪問予定を変更、午前中の訪問を午後に回すなどして切り抜けました。同ステーションの西村さくら所長は 「朝になったら、訪問用の車が雪に埋もれていてびっくり。職員が出勤できない、除雪車も渋滞で到着しない、大わらわでした」とふり返ります。
こうした季節、心配なのが独居や高齢の患者です。生活保護世帯が多く、調査でも気温二度、室温五度など、少しも暖かくない家で身を縮めて療養しているの です。「今年の冬は特に寒く、エアコンやストーブを設置するように声かけをしましたが、なかなかすすみません。経済的な理由が大きいようです」と西村所 長。容態が悪化して、入院する患者も例年より増えました。
一人では給油できない患者には、ヘルパーと連絡を取り合って給油が途切れないようにしています。特に寒い日には光陽生協クリニックのデイケアやショート ステイに来てもらうなど気配りが欠かせません。患者の窓口負担を減らそうと、ステーションの訪問看護師が高額療養費の限度額適用認定証の申請にも同行しま した。「必要なのは患者の生活に目を向けた訪問看護の実践ですね」と西村所長は話します。
(民医連新聞 第1495号 2011年3月7日)