路上生活者に多数の精神疾患 日本で初の調査 森川すいめい医師(精神医療交流集会の講演から) IQ70未満の人が34%も 生活保護の受給にも壁が
「ホー ムレス状態の人に精神障害を抱える人が多数いる」。精神医療・福祉交流集会(一月開催)の講演で、精神科の森川すいめい医師が明らかにしました。路上生活 に陥り、そこから抜け出せない理由に障害が関係しており、生活保護制度の欠陥が問題を難しくしているという指摘です。講演の要点を紹介します。
森川医師は、久里浜アルコール症センターに勤務しながら、二〇〇三年にホームレス者を支援するNPOを立ち上げ、池袋で医療相談などを行っています。
ホームレス者の精神疾患に関する文献は海外には多数あります。米国サンディエゴの調査では、重篤な精神疾患を有する約一万人のうち一五%がホームレス状 態を経験しており、ホームレスの人では一般に比べ、統合失調症が二・四倍、躁うつ病が一・六倍、依存症が五・三倍でした。カナダの約九〇〇人の調査で、 ホームレス者の半数に高次脳機能障害の既往があったと報告されています。
日本では森川医師らの調査が初めて(『公衆衛生学会誌』に〇八年調査報告が掲載予定)。〇九年の調査(一六八人)では精神障害が一〇~一五%、アルコー ル依存症が一九%。IQ検査(簡易式・本人の同意による)で、IQ70未満の人が三四%でした。
ワーカーが実態知らない
では「障害を抱えて自力で路上から脱出できるか」と森川医師。
日本の生活保護の捕捉率(低所得者の受給率)は一〇%。西欧諸国の多くが七〇~九〇%なのに比べひどく低率です。要因は多数あり、一つが「扶養の義 務」。頼れない親族や虐待した親にも「扶養してほしい」と通知が行くことが、保護の受給を妨げています。
「申請の原則」もあります。IQ70未満の人が福祉事務所に一人で行って手続きすることは困難。申請書をひらがなで書いたら「こんな字も書けないのか」 とバカにされ、怒って帰った人の例をあげました。
生活保護で最初に入れられる施設の環境が劣悪で、他人との共同生活を強いられ、「まだ若いから働けるでしょう」とすぐ就労指導が始まるのも辛いものです。
森川医師は「三年ほどで交代する福祉課のワーカーは障害についての知識がない。IQ70未満の人がハローワークで仕事が見つけられない現実を知らない」と言います。
生保「高い自殺率」の背景
「ホームレス支援法」には精神疾患や知的障害の人を想定した施策はありませ ん。調査では、路上生活者の数が減る中、精神疾患や知的障害、身体障害を抱える人が残り、その密度が高くなっている印象でした。「子どもの時からのろま、 のろまといじめられた」という人が珍しくないと話します。
さらに、生活保護を受けた後はどうか。最近、生活保護受給者の自殺率が一般に比べ二・五倍と発表されました(厚労省)。森川医師は「背景に精神疾患があ るが、それだけで片付かない問題がある。障害のある人や生活困窮者への自殺対策が不十分」と指摘します。生活保護の受給が、病気で身心がボロボロにならな いと認められない現実をも反映しています。
また、保護廃止理由に「失踪」が一五%あります。その裏には、受給後に障害のケアが十分に行われていない事情があると考えられます。
病気、認知症の人が路上へ
調査では、路上生活者の中に糖尿病、高血圧、肝硬変、脳梗塞後遺症、認知症の 人も。半身マヒで「集団生活だと人に迷惑をかけるから路上でいい」と言った人、認知症が入院中に診断されず、退院して野宿に戻り、また倒れた人もいます。 この人は精神科医の助言で施設に入りましたが、ほかにはパトカーで代々木公園に捨てられ凍死という事件も起きています。
精神科病床を減らすことについては、「良いことだが、地域のケアがないと問題が生じる」と危惧します。「米国では、一九六〇年代から精神科病床が減った ことに反比例して、ホームレス状態になる精神障害者が増加」、精神病院廃絶法があることで有名なイタリアを見てきて「重症の精神疾患と思える人がかなり路 上にいると感じた」と話しました。
障害のある人や低所得者に対する総合的な対策の必要性を強調しました。
(民医連新聞 第1495号 2011年3月7日)