相談室日誌 連載322 期待と矛盾の中で「橋渡し」 阿部 裕昭(新潟)
「阿部さん、助けて~」。ケアマネジャーや行政から、時には少し離れた地域のケアマネジャーからも「入舟は受けてくれると聞いたから」と緊急受け入れ依頼がきます。
〇八年六月、舟江病院から転換する形で老人保健施設(以下老健)入舟は開所しました。以降、老健の役割と現実のギャップ、制度の制約に苦しみながらここまできました。
老健は制度上、入所でもショートステイでも、薬代はほとんど保険請求できず施設の持ち出しです。老健の入所者が病院を受診すれば、ショートステイの場合 であっても、一部を除いて医療費を老健が負担しなければならず、頭を悩ませています。薬価だけで入所の判断はしませんが、経営面を考えれば薬価を気にしな ければいけないことにも葛藤を覚えます。しかも、医療依存度の高い人・薬をたくさん飲まなければいけない人の入所依頼は多いのが現状です。冒頭のように緊 急でショートステイを受け入れる場合、医療や薬の必要性についての情報を事前に得ることはほとんどできません。
そのような中、一〇年四月からは無料低額診療事業も開始。ケアマネジャーからは、ますます「頼りにしている」と言われるようになりました。そして、紙お むつをしていた利用者が「排泄自立」へ、胃ろうを造設していた人が経口摂取へ移行し、さらに、歩行もできるようになった姿を目の当たりにしました。細かな 変化を見逃さない観察力と工夫で自立を促していく各専門職スタッフをとても頼りにしています。
ところが、いざ在宅に戻る話をすると、ご家族や周囲の人たちから、特に認知症のある人では「帰ってきては困る」という声が出たりします。老健は施設から 在宅への「橋渡し」の役割を担うと言われます。その「橋」を渡すところがないことに、いまさらながら気づいたり、ご家族から「あの人(阿部)に会うと、い つも帰れと言われる」と煙たがられることもあります(言わないのですが…)。
苦労や矛盾はありますが、利用者本人・家族とのコミュニケーションを取りながら、地域・在宅へ「渡す」ための「橋づくり」をすすめ、地域に根づいた老健になれるよう、努めていきたいと思っています。
(民医連新聞 第1495号 2011年3月7日)
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