薬害イレッサ 国は和解拒否、現場に責任転嫁
死者八〇〇人余におよぶイレッサの薬害を問う訴訟で、被告アストラゼネカ社と国は、東京と大阪地裁の和解勧告を拒否しました。
両地裁の和解勧告「所見」は、(1)承認前の国内治験・治験外使用の副作用報告によって、致死的な間質性肺炎は予測できた、(2)承認当時、医師や患者 は「イレッサは副作用が少ない」と認識していた、(3)初版「添付文書」での注意換起の記載は不十分だった、という事実から「国に責任がある」としまし た。得られていた副作用情報を医療現場に十分に提供すれば被害は防げた、と判断したのです。
これまで、集団薬害事件で国が和解の席に着かなかった例はありません。裁判を長引かせて被害者をいたずらに苦しめ続けることは許されないばかりか、所見 を受け入れない態度は「薬害肝炎検証再発防止委員会」最終提言にも反します。
国に対し「和解のテーブルに着くように」との交渉が行われた最終日。弁護団によると、国側の主張は「副作用がすべてわかるまで承認できないとすると、抗 がん剤が承認されなくなる」「不可避の副作用を認めなければ、効果のある患者も恩恵を受けられず、医療崩壊となる」「承認後に分かった内容で承認時の責任 が問われるなら、薬事行政の根幹を揺るがす」「治験外使用の副作用まで検討していたら、承認が遅れる」というものでした。
弁護団は「所見に書いていないことに言及し、国民の不安を煽る言い方だ」と批判しています。事件は、承認を急ぐあまり致死的な副作用を過小評価したため 生じたのであって、国の言い分はその反省に欠けています。「治験外使用例」というのは、イレッサ承認前の「宣伝」を真に受け、メーカーから提供された薬を 医師に頼みこんで使用した患者です。
一月二八日、国は「勧告に関する考え方」を出し、その中で「今回の事案はいわゆる『薬害』というよりも『副作用』の問題」「がん患者にとって間質性肺炎 が…致死性のものであることは、医師にとって周知の事実です」「副作用情報の四番目に記載されていても同じこと」「個別に各医師が患者や家族にどう説明 し、どう観察し、どう判断したかということです。この点はまずは現場の当事者間の問題」とのべています。
国の監督義務を棚に上げ、その責任を医師や医療現場に転嫁するに等しいもの。安全でない薬が不十分な情報とともに発売され、重大な副作用が頻発しても適 切な対処がされない。これこそが、薬事行政の根幹を揺るがす重大問題です。
(民医連新聞 第1494号 2011年2月21日)
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