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民医連新聞

民医連新聞

社会問題を「当事者」から学べ 患者さんを通して見えたウチらの使命 大阪・同仁会

 「制度教育」は、民医連や法人の歴史、理念を職員が学ぶ場です。大阪・同仁会では今年度の制度教育のプログラムの中に「社会問題 をその当事者から学ぶ」という企画をすえました。B型肝炎、被爆者、水俣病、アスベスト、戦争…。被害を受け、救済と保障を求めて声をあげる人たちの話を 直接聴こうというもの。講師はいずれも同仁会の病院や診療所の患者さんです。(木下直子記者)

空襲に足を奪われた少女

 一月二五日の講座を訪問しました。六月の開始から三八回目にあたります。二三人が受講しました。
 この日の「当事者」は、太平洋戦争の空襲で障害を負った安野輝子さん(71)。政府に保障を求め大阪で集団訴訟を起こした原告の一人です。
 「私の左足は六歳の時、B29が落とした爆弾でちぎれてしまいました。命はとりとめましたが、その後六五年間、義足と杖の生活です。幼かった私は、足は また生えてくると思っていたの。でも戦争が終わっても足は生えなかったわね…」
 涙で途切れがちになる話に、会場全体シーンと聞き入ります。
 足が原因でいじめられ、休みがちだった学校のこと、洋裁を仕事にし、家の中に閉じこもっていた青春時代。戦争が安野さんの人生を変え、二歳の弟と叔父の 命を奪ったこと。空襲で被害を受けた市民にこれまで何の謝罪も補償もないことへの疑問。二〇〇八年一二月に大空襲の集団訴訟を二三人で起こしたのは、年を とり、残された時間の短さを意識した時「黙って一生を終えたくない」と考えたから。
 「泣いてしまってごめんね。これは私たちの人権を取り戻すたたかい。みなさんも力を貸して下さい」安野さんはこう結びました。

 講演後は「社会問題をどうとらえるか」をテーマにグループワーク。感想、問題は避けられなかったのか、社会問題の背景にあるものは何かなどを話し合い、「私たちにできること」を発表。
 「空襲の訴訟が、この大阪でされてるのを知らんかった」「子どもには戦争を体験させたくない」「忘れない。伝えてゆく」

「テレビの人」が患者さん

 安野さんのように、自らの体験や思いを職員たちに語ってくれたのは、アスベスト、被爆、水俣病、肝炎訴訟のたたかいの当時者のべ二八人。どの問題の当事者の話を聴けるかは回によって違いますが、講師は全員、同仁会の患者さんにお願いしています。
 「職員は集中して聴きます」と制度教育を担当する法人の今井美保さん。「こんなのテレビの話やと思ってた。ウチの患者さんにもおられたんですか?」と、 驚く職員がいます。涙をボロボロこぼしながら聴く職員も。社会問題とたたかう人たちと自分との距離がこんなに近かったんだ、ととらえ直すきっかけになりま した。

世の中変える人に

 安野さんも毎月、杖をつきながら話しに来てくれます。
 「空襲体験を話すと、思い出したくない恐怖がよみがえります。でも、耳原が社会や平和の問題に関心が深い病院やと知ってます。何より職員は社会の最前線 にいて、世の中を変えていく人たちやと思うから、お話するんです」
 民医連を受け継ぐ人が育ってほしい、この願いが地域にあることを実感する言葉です。

制度教育は「危機感」から

 同仁会が年一回一日の制度教育をパートを含む全職員に実施するようになって五 年になりました。企画は法人の教学委員会と専務室です。「きっかけは危機感でした」と、田代博専務「幹部が次つぎ定年を迎え、『前倒産事件』やセラチア菌 の院内感染を克服した過程を知る職員が半数もいない。民医連や同仁会の歴史を受け継ぐ職員をいま育てなければ、と」。
 学習の柱は、「個人情報保護」「民医連綱領と同仁会の歴史・方針」「医療安全・感染対策」、そして「社会問題」の四本。最初の三つの学習内容が大きく変 わることはありませんが、人権や社会問題は毎年学び方を工夫しています。
 社会保障制度をテーマに選んだ去年は、「大黒柱が病気で倒れた。使える制度を探して一家を救おう」という課題に、パソコンを持ち込んでネットで調べなが ら挑戦。「子どもは学校をやめなあかんか?」など、議論しつつ学んだことは身につき、仕事に生かそうとする看護師も現れました。人権や地域を学ぶ課題で は、SW集団のバックアップも強力です。

講師は全職責参加で担う

 総勢八〇〇人を超える職員。現場から少しずつ送り出される全員の受講を保障するために、今年度も四〇回の日程が組まれました。運営や講師は、管理・職責者全員が輪番であたります。講師養成講座も八回実施しました。
 当初「やってられへん」とぼやく職責もいましたが、最近そんな声は出ません。また、どの人の講師ぶりも回を重ねるたびに上達。徹夜で準備する人も。
 「五年で目を見張るような成果があった、なんて言いません。でも、職責全員そうしてがんばれているのは、自慢してエエでしょう。この宝を、この先五年で どう生かしていこうかと、いままた検討しています」と田代さん。

(民医連新聞 第1494号 2011年2月21日)