相談室日誌 連載320 孤立していた老母と息子は新生活へ 宮野光喜(香川)
Aさん(七〇代女性)は、八年前に夫を亡くし、息子Bさん(四〇代)と二人暮らしでした。Aさんは脳梗塞と診断を受け、急性期病院で治療を受けており、息子さんが当院に転院の相談に来られました。
私はBさんの風貌を見て異変を感じました。破れたTシャツ、短パンにゴム草履姿。風呂に入っていないと思われる臭い。要望を尋ねても、頭を抱えて言葉が返ってきません。
ようやく知ったのは、Bさんが中学時代にいじめにあい不登校だったこと、卒業後は自衛隊に入ったものの七年目にいじめのため退職。職を転てんとした後、 この一〇年間は自宅にひきこもり、月一二万円のAさんの年金で生活していたことです。Aさんだけでなく、Bさんに対する支援も必要と考えました。
自宅のようすを見に行って、さらに驚きました。築百年以上と思われる藁葺(かやぶ)き屋根をトタンで覆った掘っ立て小屋のような家。物が散乱し、どこが 玄関なのかわからず、柱はシロアリに食われています。エアコンはなく、夏の猛暑はどう過ごしていたのか…。
病院に戻り、家に帰って大丈夫なのか協議し、賃貸住宅を探すことになりました。でも、家賃が払えるかも問題で、生活保護課に掛け合いました。結果は「基 準をわずかに超えるため受給資格はない」と。公営住宅を申し込み、「困窮と足が不自由な母親がいるので優先してほしい」と交渉しました。しかし、「あくま でも抽選」と冷たい返答。生活困窮者のための公営住宅ではないのか、と憤りを感じました。幸い当選したのですが、次は入居契約の保証人が問題に。これも、 疎遠だった親戚に頼むことができ、いまAさんは小規模多機能型の介護居宅施設を利用しながら、Bさんと新しい住宅で生活を送っています。
社会的弱者は、経済優先の社会から取り残されて、地域からも孤立し、ともすれば親族からも見放されることがあります。行政は、生活にあえぎ、孤立してい る住民にこそ目を向け、救済していくことが必要ではないのでしょうか。
この家族に対しては、再度、生活保護申請を検討し、また、Bさんにはカウンセリングを受けることをすすめ、社会参加できるよう支援していく予定です。
(民医連新聞 第1493号 2011年2月7日)
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