医療や介護を立て直し、負担を軽減する大運動を。いま民医連の出番 前参議院議員・医師 小池晃さんに聞く
小池晃さん(医師・日本共産党前参議院議員)は、昨年の選挙後も元気に全国を飛び回っています。菅政権が変質し、外交面でも不穏 な空気がただよう中、まもなく国会が開かれます。今後の政治の展望、重要課題について話を聞きました。
春の国会には社会保障を左右する重要問題が出されますね?
来年度予算案が決まりましたが、財界言いなりに、財源のあてもなく法人税の五%減税を決め ました。菅首相は「賃金や雇用にまわしてもらう」と言いますが、日本経団連の米倉会長は「約束できない」「資本主義の考えと違う」と拒絶しています。大企 業減税を先行させて、つけは消費税にまわそうというのがねらいです。米軍への思いやり予算もそっくりそのまま計上しました。財界やアメリカ言いなりの姿 が、自民党政治と「うり二つ」になってきました。
社会保障分野でも悪い法案がぞくぞく準備されています。政府は後期高齢者医療制度の「廃止」を先送りして、高齢者差別のしくみをそっくり残すつもりで す。国保の中に高齢者だけの別勘定をつくり、市町村単位でなく都道府県単位に広域化すると発表しました。これを高齢者だけでなく、現役世代にも広げようと いう計画です。
国保には現在、住民運動などでつくった保険料の減免制度や一般会計からの繰り入れがありますが、広域化すると繰り入れは事実上不可能になります。住民の 声が届かず、保険料も高くなり、滞納者への制裁が機械的に行われるなど、問題だらけです。七〇~七四歳の医療費も二割負担に引き上げようとしています。
介護保険も、軽度者の生活援助など保険給付を外す、一割の利用料を一部で二割負担に引き上げることなど負担増と給付抑制がねらわれています。たたかいを 強めて、逆に、医療や介護の「負担軽減」を実現するために力を合わせましょう。
「地域主権改革」も問題だらけです。要は「社会保障の責任を地方自治体に丸投げし国は責任をもたない」「一括交付金化で財源支援を減らす」もの。保育所 の最低基準など国の歯止めを取り払って「自治体の自由」にする。自治体は財政危機に追い込まれているから、住民要求の実現は困難になる。それは住民と自治 体の自己責任というわけです。
地域で「社会保障の改悪を許さない」たたかいが必要です。民医連の出番だと思います。
TPP(環太平洋経済連携協定)の一番の問題点はなんでしょう?
国民の食卓が脅かされることです。日本はすでに食糧輸入国で関税率は高くない。農産物は平 均一二%、漁業は四%です。米国の農産物を買わせる戦略の中、輸出大企業が車などを売るために農業を犠牲にしてきました。世界が食糧不足のとき、日本が農 業に最適の国土を生かさないのは愚かです。
これは農家・農民だけの問題ではありません。外務大臣が「一次産業で働く一・五%のために他を犠牲にしていいのか」と言ったけれど、安全でおいしい国産のものを食べたいというのは国民みんなの願いです。
「関税撤廃が世界の流れ」のように言われますが、外国はきちんと関税で自国の農業を守っています。EUの関税は平均二〇%、ブラジルやアルゼンチンは三〇%以上です。
さらに、看護師や介護労働者、経営資源などの自由化も問題です。
TPPは米国の影響下にアジアを置くことが狙いです。「乗り遅れるな」どころか「乗ったら地獄行き」です。本気でアジア地域が共存できる経済を望むな ら、関税をなくすのではなく、各国の社会保障制度を引き上げたり、労働のルールを確立したり、環境問題で連携を強めることこそ必要です。現にEUはそうし ています。米国の言いなりになって、儲かるのは一握りの輸出大企業と商社で、国民のくらしは犠牲だけです。
北朝鮮、尖閣諸島、千島問題など、外交面も不穏な雰囲気ですが?
北朝鮮が韓国を砲撃し、民間人にも犠牲が出ました。絶対に許せない無法行為であり、私たち も厳しく批判しています。同時にこの問題の外交的・平和的解決を求めています。相手が無法であればあるほど、対する国際社会には道理と冷静さが必要です。 こういう時こそ憲法九条を生かした外交の力を、日本が発揮すべきです。
中国などとの間で問題になっている尖閣諸島ですが、これは歴史的にも、国際法上も、明白な日本の領土です。私たちは日本の中国侵略を厳しく批判してきましたが、尖閣諸島の領有は侵略とは無縁の話です。
ところが政府は、こうしたことをきちんと主張せず、すぐに自衛隊配備に走ろうとしています。平和も主権も損なう愚かな行為です。
千島問題でも、国後・択捉の二島だけでなく、カムチャツカ半島の手前まで、すべての千島が日本の領土です。一八七五年の千島・樺太交換条約で平和的に取 り決めたものですから。ところが第二次世界大戦後の処理に乗じて、ソ連(当時)のスターリンが奪い、日本はそれを許してしまったのです。
今までの自民党政府がそれを認めてきたのは、侵略戦争にけじめをつけていない弱みがあるからです。侵略戦争に対する反省がないから、侵略で奪った領土と 平和的な交渉で得た領土の区別もつかなくなるのです。日本に必要なのは軍事力でなく、憲法九条を正面から掲げた、道理にもとづく外交力だと思います。
菅政権が「新自由主義」へ舵を切り今後の政治は?
地域経済の疲弊、若者の失業率の高さ、農業・漁業を取り巻く環境の深刻さなど、日本中が問題だらけです。政権交代に期待があっただけに、裏切られたという怒りが強いと思います。
春の統一地方選挙は暮らしに密着した課題が争点になると思います。特に、高すぎる国保料、自治体病院の閉鎖・統廃合、子育て、介護などです。社会保障を 充実させることは暮らしを良くすると同時に、地域経済にもプラスです。地域の業者に仕事が回り、保育士や介護職をはじめ働く世代の雇用を増やし、経済効果 が抜群に高い。このことを正面から訴えましょう。
民主党政権は、「国民の生活が第一」と公約はしたけれど、実行できないのは財界や米国の脅しと圧力に屈服してしまうからです。国民とともにたたかう姿勢 がないのです。国民の要求を実現するには、それをはばむものとぶつからざるを得ません。財界や大企業、米国にきちんとモノが言える政治が必要です。
国民の願いをはばむ者は誰か、それに立ち向かっている勢力は誰か、多くの国民にはっきり見えてくれば、必ず日本の政治は変わります。一歩一歩時間がか かっても大事なプロセスです。常に希望ある方向を示し続けることが私たちの役割です。ともにがんばりましょう。
(民医連新聞 第1491号 2011年1月3日)