きらり看護・ほっと介護 赤ちゃん人形を使って認知症高齢者のケア 滋賀・老健日和の里/伊藤扶美香(介護福祉士)
日常業務に追われ、利用者との関わりが十分にできず困っていたところ、滋賀県立大学人間看護学部の畑野相子准教授から、「人形療法」の研究について協力依頼がありました。
人形療法とは、赤ちゃん人形とのふれあいを通して認知症高齢者の気持ちを和らげ、ケアに役立てるものです。研究はその効果を検証することが目的で、私たちは協力することを決めました。
難聴のため筆談が多いケイコさん(仮名)は九〇代の女性です。赤ちゃん人形三体を見せ、気に入ったものを選んでもらいました。その人形を使って回想法を 行い、別の職員がケイコさんのしぐさ、表情、動作などの反応を記録しました。
開始~二カ月目では、ケイコさんは「あらあら、ようけ座ったはんなぁ」と人形に話しかけ、人形のようすを職員に教えてくれたりしました。そのころ、ケイ コさんに母親について尋ねると「物心ついたころに和裁を教えてくれ、『器用な手だから大切にするんやで』と言って、裁縫の高等学校にすすませてくれた」と 話しました。
三~四カ月目になると、人形を見せた最初だけ表情の変化がありましたが、時が経過すると無表情になり、少し抱くと「もう、この子抱くのええわ~。どこか 連れていって」と言いました。もうほとんど関心がないようでした。
そこで五カ月目以降は、人形に動作をつけてみました。人形に「おはよう」とおじぎをさせると、ケイコさんも「おはようさん、あれまぁ、いらっしゃい」と 返事をしました。職員は「この子は最近、いろいろ覚えて手伝いをしたがるんです。タオル巻きを教えてあげてください」と言って、いっしょにタオル巻きを始 めました。すると、ケイコさんは巻いたタオルを人形に持たせて喜びました。職員もいっしょに人形に話しかけ、作業中はずっと笑顔でした。
人形を介して過去を回想することで、ケイコさんの幼少時代、親との関係などの一面を知る機会になりました。記憶や気持ちを引き出すうえで有効でした。
回想法やコミュニケーションツールとしても効果がありました。うまく活用するには職員の対応も重要です。人形療法を通して私たちは利用者への言葉かけや 態度を振り返り、笑顔が引き出せるような会話を心がけるようになりました。
(民医連新聞 第1491号 2011年1月3日)