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民医連新聞

民医連新聞

「困ったことは相談してね」 高齢者を訪問 実態つかむ

高齢患者の独居マップ作成

京都・吉祥院病院

 孤立化する高齢患者の生活をささえようと、吉祥院病院(京都)の外来看護課が「独居マップ」を作成、看護師が昨年四月から七月にマップ上の一〇九人(男性四四、女性六五)を訪問しました。
 同院では二〇〇七年から、外来看護師が待ち時間を利用して患者の生活背景の聞き取りをしてきました。聞き取りから六五歳以上の独居患者の自宅を地図上に 落としてマップを作成。訪問には外来看護師一四人が参加、勤務時間内で診察に影響のない時間を選び、私服で訪問しました。
 このうち、脳梗塞で片麻痺のあるAさん(69)は、杖歩行での通院が困難になり、タクシーを利用していましたが、攻撃的な言動でタクシー会社から利用を断られることがあることも訪問からわかりました。
 Aさんは突然の訪問にもかかわらず、顔なじみの看護師の来訪に喜び、介護保険の申請を希望しました。ところが、同院のケアマネジャーが訪問したところ初 対面という理由で室内に入れてもらえず、再度看護師がケアマネといっしょに訪問し、介護保険の導入につなげました。後日談ですが、Aさんは熱中症で室内に 倒れているところをヘルパーに発見され、救急搬送で入院、ことなきを得ました。
 ほかにも、普段の外来ではわからない患者の実態が訪問で見えてきました。「息子が銭湯に連れて行ってくれる」と自慢していた糖尿病のBさん(85)は、 フットケア外来時に足の化膿が見つかり衣服の上からも異臭がしていました。自宅を訪問すると、ゴミが散乱し、来院時の話と違う実態がわかりました。そこで 介護保険のデイサービスを利用してもらうよう手続きし、その施設で入浴ができるようになりました。
 遠方から歩いて通院していたり、足腰が悪いのに階段が多い場所に住んでいたり、患者の生活実態をつかむことができました。同院の柳しのぶ看護師は「訪問 看護や介護保険の利用が必要な状態にもかかわらず、経済的な理由や他人の世話になりたくないという思いから利用していない患者が多いようです。また、利用 できる制度やサービスを知らない人もいます」と指摘。同院では今回の訪問から得たデータをもとに、気になる患者リストを作成、継続して訪問しています。

介護が必要でも申請せず

福岡民医連 高齢者実態調査

 福岡民医連は今年五~七月、県内の六五歳以上の患者・利用者宅を訪問して 生活実態を聞きました。調査には訪問マニュアルをつくり事前学習も行い、職員延べ七四八人が参加し、四四四人(平均年齢七八歳)から聞き取りました。同県 連は「高齢者の貧困と孤立、医療・介護の抑制が広がっていることがわかった。統一地方選でも訴えていきたい」としています。

 同県連は調査結果から、まず一点目として「高齢者は孤独な環境におかれている」と指摘。一人暮らしは三七・五%、夫婦二人世帯は三二・五%と合計七割が高齢者のみの世帯でした。
 まったく外出しない人は一一・四%、ほとんど外出しない人は二〇・二%にのぼり、高齢者のみの世帯や低所得者ほど家に閉じこもりがちです(図1)。八割 が将来に対する不安を抱え、まったく相談相手がいない人が一割いました。切実な声として「話し相手がほしい」「一人で寝ていて、急に具合が悪くなったら不 安」などがありました。
 二点目は、「生活困難の広がりと医療・介護の抑制」です。現在の暮らし向きは「大変苦しい」が一二・七%、「やや苦しい」が二六・八%で、四割が経済的 に困窮した生活と回答。ここ四~五年で暮らし向きが悪化と回答した人も四割いました。
 苦しい生活の中で、「介護は必要だが、要介護認定を申請していない」という人が五五%にのぼり、費用負担から介護サービスの利用をためらっている様子が うかがえます。健康上の理由で日常生活に支障がある人は四六・七%と半数近くで、支障の中身は外出が多く、仕事・家事、運動、入浴・洗顔と続きます。
 また、民医連の『歯科酷書』でも明らかなとおり、歯科受診は後回しになりがちです。調査でも一六・五%が、歯が痛い・入れ歯が必要でも「受診しない」と 回答、理由の一番目は「通院が大変」、二番目は「治療費の負担が大変」でした。
 三点目は、「低所得でありながら、民間保険に頼っている現実」です。住民税や国保税、介護保険料改定による生活への影響については、約四割が「負担が重 く支払いに苦しんでいる」と回答、医療費は四六・六%が負担を感じています。
 その一方で、民間保険の加入が三七%に及び一カ月の保険料平均は一万三〇〇〇円でした。加入者の三割が月収一〇万円未満の低所得層です。国民皆保険・皆 年金制度が崩壊しつつある中、保険会社の宣伝・売り込みの激しさと将来不安を示すものです。
 「なぜ、高齢者がここまで苦しい生活を強いられるのか。政治に責任があることがわかった」「患者さんから『頼りは病院だけ』と言われ、あらためて地域の 人との交流が大切だと感じた」と話す職員がおり、訪問調査は職員育成にも効果を発揮しています。同県連は調査結果をもとに、高齢者の貧困にテーマを絞って 今年二月に事例運動交流集会を開催する予定です。

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(民医連新聞 第1491号 2011年1月3日)