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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 救急外来から見える社会の変化 石川・城北病院 急激に増えた無保険、派遣切り いのちと健康を守る職場に

 派遣切りや無保険など救急外来の現場だからこそ見えてきた患者の実態について、第一〇回看護介護活動研究交流集会で、城北病院救急病棟看護師の松島博枝さんが発表しました。

搬送直後に亡くなる

 「年越し派遣村」のニュースを他人事のようにとらえていた私ですが、二〇〇九年に入ると当院の救急外来にも無保険の患者搬送が急激に増えてきました。
 そこで、〇九年の当院の救急搬送数一三一〇件のうち、三〇~五〇歳の働き盛りに絞ってカルテを調べてみました。すると無職で路上生活を余儀なくされ、か つ無保険の患者が一〇人もいました。〇八年のカルテも調べてみましたが、三〇~五〇歳代でこうしたケースは一件もありませんでした。
 患者はいずれも男性で、うち五人は派遣切りと同時に住むところを失っていました。就職活動はしているものの仕事が見つからなかったり、生活保護を申請し ても取得できない人もいました。このうち一件は搬送後に治療のかいなく亡くなりました。残り九人の患者は当院のケースワーカーの支援で生活保護を申請しま した。
 忘れられないのは、まだ四〇代の若さで亡くなったAさんです。一一月に嘔吐で救急搬送されましたが、六時間後に亡くなりました。富山市で空調関係の会社 に勤務していましたが、搬送の二〇日前に解雇され、会社の寮も追い出されて住むところがなくなり金沢市にやって来たとのことです。
 亡くなった翌日にAさんの家族が当院まで迎えに来ました。家族の話によると、仕事をしていた時から頻繁に体調を崩していたものの、「休むと仕事がなくなってしまう」との不安から受診は控えていたとのことです。
 生活苦から自死を意識した人も少なくありません。五〇代のBさんは昨年一二月に食事がとれなくなり、入院となりました。その前月上旬まで警備関係の仕事 をしていましたが、体調不良で退職を余儀なくされました。家賃滞納でアパートを追い出され、妻と二人で車上生活を続け、四日目に体調不良で救急搬送されま した。入院の翌日に妻がSWと市役所に行き生活保護を申請、その日のうちに新しいアパートも決まりました。
 Bさんは「お金も住まいもなく途方に暮れて死のうと思ったが、妻のことを考えて踏み切れなかった」と入院中に話していました。

受診環境の整備を

 今年の救急搬送については、調査していませんが、四、五月にショッキングな事例が続きました。いずれも無保険のために受診をがまんし続け、やっと救急外来を受診したものの検査中や入院直後に死亡してしまったケースです。
 搬送後三時間で亡くなった四〇代の男性は、日雇いの仕事で健康保険に加入していませんでした。大動脈解離の既往歴があり、以前は他院を受診していましたが、保険証の期限が切れた後は治療を中断していたそうです。
 また、呼吸困難で搬送された六〇代の男性は、入院三日目に亡くなりました。路上生活で一週間前から呼吸困難がありましたが、「病院前まで来ても、保険も お金もなく、なかなか入る勇気がわかなかった」と搬送時に話していました。
 今の社会状況を考えると、当面はこうした患者の増加が予想されます。私たちはまず救命治療を行い、健康を取り戻す援助をすることが第一の役割だと思いま す。同時に民医連として、保険や医療費の心配をしなくても、いつでもだれでも受診できる環境を整えることが重要です。社会情勢に常に敏感で、ほかの職場に 発信する救急外来でありたいと思います。

(民医連新聞 第1489号 2010年12月6日)