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民医連新聞

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相談室日誌 連載318 虐待…、娘からの独立 玉村幸子(福井)

 昨年の六月、居宅ケアマネから「娘に虐待されているAさん(七〇代女性)をすぐ入所させてほしい」との連絡が入りました。
 Aさんは歩行中、娘に後ろから押されて転倒し、頭部打撲で入院中でした。Aさんは「退院後は一人で暮らしたい」と言い、一週間後に当施設に緊急入所しま した。娘は精神障害のため感情がコントロールできず、介護負担が増えると興奮し、Aさんに手が出てしまうようです。Aさん親子は生活保護を受けていました が、その保護費もすべて娘が使ってしまい、Aさんが利用する福祉サービスの支払いは数カ月分も滞納状態でした。
 Aさん親子のサービス関係者合同会議では、行政担当者は「施設で生活した方が安全」との意見でしたが、最終的にはAさんの意思を尊重して在宅復帰支援を行うことに。
 新しい住居を行政担当者とともに探し、娘と面談してAさんの預金通帳を返してもらいましたが、残金はほとんどゼロ。今後引き出せないように世帯分離し、 保護費支給先の変更手続きを行いました。また、Aさんの金銭管理やサービス利用料支払いのため、市社会福祉協議会の自立生活支援事業を活用することにしま した。さらに、Aさんといっしょに市役所に出向き、在宅復帰のための一時支給金を何度か要請しました。その結果、一部は出ることになったのですが、新住居 の前家賃や家具類を揃えるには足りません。それで次の保護費が入るまで待つことにしましたが、その間娘は何度も面会に来て同居を求めました。でもAさんの 意思は固く、娘は少しずつ母の思いを理解するようになりました。
 準備期間三カ月を要し、Aさんは無事退所の日を迎えることができました。出会ったころはこわばっていたAさんの表情がいっしょに行動していく中で日に日 に和らいでいきました。在宅復帰して一年経ちましたが、独居生活は続いています。週末に訪れては部屋から食べ物を持ち出していく娘に苦笑いしながら、「あ の子を残して死ななくてよかった」と言ったAさんの姿が印象に残ります。
 介護負担からくる虐待で命を落とす事例は少なくありません。助けを求める声が届かないかもしれません。一人でも多くの声に気づけるよう、今後も力を尽くしたいと思います。

(民医連新聞 第1489号 2010年12月6日)