生活保護に“期限”“医療費自己負担”? 政令都市市長会の「提言」に市民ら抗議
生活保護の受給が全国で急増しています。毎月「調査始まって以来最多」と記録が更新され、申請理由のトップも二〇〇九年度は「失 業などによる収入減」で、従来の「病気・けが」を初めて逆転(厚労省)。非正規など不安定雇用労働者に景気後退の打撃が現れた形です。そんな中、一九の政 令指定都市でつくる指定都市市長会は、一〇月二〇日、生活保護の「抜本改革」を政府に提言。受給期間を限定する「有期保護」や「医療費の一部自己負担」が 柱です。これに対し、市民団体が一一月九日に国会で緊急院内集会「急増する稼働年齢層の生活保護受給にどう対処すべきか」を開き、抗議しました。
「財政負担」理由に
指定都市市長会がこんな「改革」を提言した理由は生活保護受給者が急増し、財政が圧迫され ているというもの。改革案の柱の一つが「有期保護」。就労可能な一六~六五歳(稼働年齢)の受給者には「集中的かつ強力な就労支援」をすすめ、就労できな い場合、三~五年をめどに保護の停止を判断するという内容です。
もう一つは医療。本人負担が免除されている医療扶助を「医療費一部負担」にしようというものです。
あわせて生活保護経費全額を、国庫負担でまかなうよう求めています。
自治体は命守れ
緊急院内集会は、生活保護問題対策全国会議(尾藤廣喜代表幹事)が呼びかけ、貧困問題などにとりくむ一一団体が参加しました。
反貧困ネットワークの湯浅誠事務局長は、諸外国の低所得者施策と比べ、日本の施策がお粗末で、失業者から高齢者までをカバーする制度が生活保護だけしか ないと指摘。「他の社会保障制度を強化せず、生活保護をしぼませては、救われない人が増える」と、のべました。
静岡大学の布川日佐史教授が、提言の問題点を解説。いま日本の二〇〇〇万人が貧困状態にあり、生活保護未満の収入で暮らす世帯が五九七万世帯という数を 示し、「貧困の拡大に生活保護の増加が追ついていない。受給者が増えすぎという認識では対応を誤る。むしろ受給者を二倍に増やす対策をとるべき」と話しま した。さらに、医療扶助については一人あたりの受給額は減少していると紹介しました(表)。
そして「市長会の提言には、憲法二五条が保障する住民の暮らしと命を守るという視点が抜け落ちている」と指摘しました。
求人がないのに
集会では、医療従事者や生活保護を受給中の人、ケースワーカー、ハローワーク職員などが発言しました。
ハローワーク職員でつくる労働組合の河村直樹さんは、提言が掲げる「強力な就労支援」を懸念。「有効求人倍率は〇・五五%で、ハローワークの求人票がす べて埋まったとしても、百数十万人の失業者があぶれる、『働きたいのに働けない』事態。就労支援は生活支援と別になされないと効果が薄い。有期保護の導入 は、私たちが就職相談に乗っている人たちに飢死しろと言うようなもの。撤回してほしい」と訴えました。
医療分野からは、全国保団連の住江憲勇会長が発言。「医療現場で発生している治療中断や手遅れ事例などが貧困と密接に関わっている」と報告し、提言の医療費自己負担化に反対を表明しました。
(民医連新聞 第1489号 2010年12月6日)