新福祉国家をつくろう 社会保障憲章と基本法でシンポ
構造改革路線でもなく、ましてや旧来の利益誘導型政治でもない、新しい第三の道は「福祉国家づくり」。一〇月二四日、東京都内で シンポジウム「新しい福祉国家の姿を展望する~社会保障憲章・基本法の提起を通じて」が開かれました。全労連、全日本民医連などが協力する「福祉国家と基 本法研究会」の主催で、約二〇〇人が参加、「社会保障憲章」と「社会保障基本法」の一次案について、熱い議論を交わしました。
集会では最初に、全国生活保護裁判連絡会事務局長の竹下義樹弁護士が、社会保障憲章と社会保障基本法を提起する理由を説明しました。
「構造改革路線に対抗するには、生活保護や後期高齢者医療制度など、個別の問題を批判するだけではだめ。日本の社会保障はどうあるべきか、全体像を示し てたたかう必要がある。そこで、新福祉国家構想の根幹をなす社会保障憲章案と、それを具体化する社会保障基本法案を作成した」と語りました。
金沢大学の井上英夫教授は、「日本の社会保障の弱点は、理念がないこと。だから財源の有無で中身が決められてしまう」と指摘。社会保障を人権の視点でと らえた憲章と基本法の備えるべき六つの原則について説明しました。
憲章で水準を明確に
社会保障憲章の第一次草案について、都留文科大学の後藤道夫教授が説明。
「社会保障の満たすべき水準を示した。日本ではその議論やたたかいが弱かった」と強調しました。
憲章の第一章では、失業やワーキングプア、地方経済の落ち込みや自営業者の苦境、高齢化などによって社会保障の必要性が増していることを明確にしました。
第二章では、一〇年間続いた構造改革路線によって、介護保険や国民健康保険に「保険主義」が強化され、また障害者自立支援法に見るように「受益者負担主 義」が強まった結果、社会保障がゆがみ、日本は世界的に見て遅れた水準にあり、「国民の『需要』に応えて抜本的に拡充する必要がある」とのべています。
第三章は社会保障の抜本的拡充に向け実現すべき原則について、(1)人権としての社会保障の諸原則、(2)健康権・労働権など各領域における諸原則、 (3)制度のあり方と運営にかかわる諸原則を明らかにしています。
来年2月に最終案
社会保障基本法の第一次草案は一橋大学の渡辺治名誉教授が解説しました。
「この法律の目的は、(1)私たちがもっている権利と、その実現に必要な制度の全体像を明らかにすること、(2)現実の法律や制度をあらためて点検し、 改革・強化していく法的な根拠になること、(3)憲法二五条をめぐる裁判で、二五条の精神に反する判例の見直しを迫る指針になること、の三点です」話しま した。
基本法案は全部で三一条からなり、社会保障の範囲と法律の役割、社会保障全体に適用される原則、制度の適用を受けるために手続き的な権利、各領域の権利と改善が求められる事柄など、をのべています。
四人のパネラーの説明に続き、討論が行われました。参加者はさまざまな意見を寄せ、憲章と基本法を補強しました。憲章と基本法の一次案は、東京社会保障推進協議会のホームページに掲載されています。
http://www.tokyo-syahokyo.net/index.html
研究会は一二月末まで全国から意見を集め、来年二月には最終案を発表、四月にはそれを書籍として刊行する予定です。意見の送付先は東京社保協へメール(syaho 001@chihyo.jp)で。
(国民運動部・佐久功)
(民医連新聞 第1488号 2010年11月15日)