“歯” ガマンしてませんか? 全国で「一万人アンケート」 全日本民医連歯科部会
全日本民医連の歯科部が二〇〇九年に発表した『歯科酷書』(以下『酷書』)は歯科の受診困難やひどい虫歯・歯肉の状態が貧困と結 びついていることを明らかにし、歯科界やマスコミに大きな反響を呼びました。無料低額診療事業や「保険で良い歯科医療」運動の役割にも光をあてました。歯 科部では現場からの情報発信をいっそう強めようと、今年度は共同組織の人たちを対象に一万人アンケートを実施しています(推進月間は一〇月八日~一一月八 日)。『歯科酷書』を共同組織の人たちに知らせ、その声から職員が学ぼうというもの。その結果を『歯科酷書第二弾』に反映させる予定です。(小林裕子記 者)
お金の心配せずに来てほしい
東京・相互歯科では
相互歯科ではアンケートの目標二〇〇通は超えましたが、引き続きとりくみ中です。一〇月二 八日、午後の休診を利用して職員六人が二人組で近くの都営住宅へ。小雨の中、濱野陽子さん(歯科医師)と柳沢優子さん(歯科衛生士)もアンケート、『酷 書』のチラシ、無料検診の案内を手に四軒を訪問しました。
「地域を回るのに抵抗感は全然ありません」と二人。歯科往診や気になる患者訪問、「入れ歯の使用状況調査」も実施中です。
訪問先では、玄関に貼った「友の会・何でも相談」のステッカーも見つけました。二人は各戸で「経済的に大変で歯科にかかれない方もおられるので…」と説 明、アンケートを書いてもらいました。「私は治療中だから妻に」「ご苦労様」とどこも好意的です。
「忙しくて、かかっていない」という女性(七〇代)。「疲れると奥歯が痛むんです。売薬で収まったので、そのまま」と私たちに口の中を見せました。足が 悪い夫の世話や受診のつきそいなどと家事で手一杯とのこと。「寒い中ありがとう。落ちついたら受診します」と約束しました。
患者の生活背景を聴き取る
訪問を終えた職員がそろったところでカンファレンス。一週間の新患のうち「スタッフ間で情報共有が必要」と初診チームが判断したケースを出し合います。 全身疾患、使用中の薬、治療方針などを示し意見交換。約一〇件のうち心身障害など困難を抱えた症例が目立ちました。岩下明夫所長は「今日は、たまたま大変 な事例が多かった」とのこと。
民医連の歯科はこのように患者の生活背景などをよく聴き取ることが特徴で、『酷書』にも表れています。相互歯科では「子どもの貧困シンポ」でも症例報告 (一一月一日付で既報)。「親子が似たように歯が悪いので驚いたでしょう。生活が大変で、子どもの歯まで構ってやれない事情があると思います」と岩下所 長。
気になる患者訪問などにも力を入れている同歯科。最近の例では、障害のある独居の男性を「義歯が使えていますか?」と訪問し、「ゴボウも氷も噛めている。また来てくれる?」と喜ばれました。
地域密着の同歯科ですが、副所長の園田真里さんは「歯科にかかれない実態が広がっている」と心配しています。「夜中に働いている人が、昼に歯科に来るの は大変です。仕事と生活環境が問題。受診できれば、相談にも乗れるし、話も聞いてあげられるのですが…」と話します。
矢ケ部好登さん(事務主任)も「いま、受診で仕事を抜けたら首になるようなヘビーな状況ですよね。待っていては困難を抱えた人には出会えないと思います」。
各地でアンケート活動すすむ
島根・塩冶(えんや)歯科では連携病院の待合室にスタッフ全員が出向き、『酷書』も見せな がら患者と対話。「私もこうなっていたかも…」「内科と違って歯科は痛くなってから行くから…」「なかなか治療が続けられない。自分もほったらかし」「歯 科は(治療費が)高いし…」などの声がありました。中には「(『酷書』の例は)歯磨きをしない人の自己責任じゃないの?」という意見があり、実態を話した という報告もあります。
巨摩共立歯科では、気になる患者訪問と中断チェックの中でアンケート。「二〇~三〇代の働く世代が、歯科に行きたくても時間がなくガマン」という印象で した。愛知・北生協歯科では院所利用委員会や班会、サークルの協力で。「受診したいが費用が…」「診察台は一回ごとに拭き清めている?」「医師や衛生士の 顔がわからない(ので行きにくい)」など、職員が直接聞くのとは違った本音が寄せられました。
(民医連新聞 第1488号 2010年11月15日)