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民医連新聞

民医連新聞

なくせ子どもの貧困 民医連、現場からも声

 政府が日本の貧困率を発表してから1年。「子どもの貧困」が注目されるようになりました。子どもたちの実態を間近に見ている人た ちがまず発信したことが、世論をつくり、状況を変えてきました。しかし、いまだに貧困解決の政策は明らかにされていません。問題解決に向け、さまざまな分 野の連携も始まっています。保育・教育関係者や地域、そして医療。子どもの貧困を考える場で、民医連の仲間たちも訴えています。

「7人に1人の子が貧困」

 二〇〇九年一〇月、厚生労働省は日本の相対的貧困率※を一五・七%と発表しました(〇七年)。一八歳未満では一四・二%、七人に一人の子どもが貧困状態に。さらに、ひとり親家庭の貧困率は五四・三%にも。半数以上が該当していました。
 これは国際的にみても厳しい水準で、OECD(経済協力開発機構)資料ではワースト八位でした()。

 子どもの貧困率は悪化しており、八〇年代に約一〇%だったものが約五ポイントも上昇しました。
 原因は、(1)ひとり親世帯の増加と三世代世帯の減少により、家族で貧困を防ぐ機能が低下していること、(2)経済状況の悪化で親の所得が減少したことに加え、(3)社会保障制度の機能低下が指摘されています。
 日本ではこの三番目が大問題で、歪んだ社会保障制度や税制で、子どもの貧困率が高くなるという、他国にない逆転現象が起こっています。
 また、医療分野では昨年三月まで、親が保険料を払えないために「資格書」という無保険状態にある子どもたちが全国に三万三〇〇〇人おり、受療権も奪われていました。

 しかしこの現状を打開しようという動きも活発になっています。
 「子ども時代の貧困は、物理的な欠乏以上に、発達の諸段階でさまざまな機会が奪われ、人生全体に影響を与えるほどの不利を負う」と、分野を超えて問題にとりくむネットワークが結成されました。各地でシンポジウムなどが開かれています。
 また、日本弁護士連合会では、今年の活動テーマの一つに子どもの貧困問題を据えました。

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※相対的貧困率…全人口の可処分所得の中央値の半分に届かない所得の人の割合(〇七年は一人あたり年間一一四万円未満)。なお〇七年は九八年以降最悪。

虫歯の子、背景に貧困

東京

 「貧困・格差・孤立から守ろう 子ども!」東京集会。相互歯科の歯科衛生士・ 清田真子さんが映し出す、虫歯だらけの口腔内写真に、驚きのざわめきが。小児を担当して八年目になる清田さんは、「歯科から見える貧困の実態と子どもの健 康を守るとりくみ」と題して報告しました。
 ここ一〇年で全国的には子どもの虫歯は、一人あたり平均二本以下とめざましく改善、とくに東京では平均一本以下になる一方、重症の虫歯も目立つようにな りました。一歳にして溶けてなくなった歯がある子、口の中すべてが虫歯という子…。
 「お口の健康が全体では引きあがったのに、そこから取り残されたようなひどい子どもたちがなぜいるの? と追ってゆくと、生活背景の問題にゆきついた」 と清田さん。むずかると甘いものを与えられていたシングルマザーの子、歯磨き習慣のなかった子、親は障害のある兄弟にかかりきりで世話が届かない、ワーキ ングプア家庭、若いお母さん、外国人など。
 深刻事例にあてはまることの多かったキーワードは、親の経済的困窮、長時間労働、兄弟が多い、ひとり親、受動喫煙など。また、子どもと同じく口腔崩壊を起こしていた親も少なくありませんでした。
 「口の中の問題はふだん一般の方が目にすることはありません。困窮している人ほど、支援が届きにくい。私たちも知らせていきたい」と、報告を終えた清田さんは語っています。

 

“医療”と“教育”、から見る

長野

 「なんとなく感じる、という程度だった貧困が、その気になると見えてきました」―長野県で とりくまれた「子どもの貧困シンポジウム」。健和会病院の小児科医・和田浩さんは、こんな風に切り出しました。シンポジストは、学校関係者二人のほか、民 医連の医師とSWの二人です。

虐待の背景にも貧困が

 和田医師は、長野県民医連の小児科医らで出し合った事例を報告し虐待やネグレクト(育児放棄)の背景にも貧困がある、と指摘しました。
 さらに、虐待事例のうち発達障害に該当した子が五四%というデータ(あいち小児保健医療総合センター)を紹介し、虐待が発達障害とも深く関わっていることを示しました。
 また、困難を抱えた親子は、「援助する気になりにくい」人物の場合が多いが、援助者には虐待にまで追いつめられた家庭の状況を理解する力が求められる、 そのためにはいまのままの人員配置では足りない、また、子どもに関わる機関の連携のあり方についても「もっと生きたものに」と問題提起しました。

病院にたどりつく子どもは少数

 SWの鮎澤ゆかりさん(諏訪共立病院)は、「『貧困は健康格差を生む』と言われるが、格差どころか生存権さえ脅かします。私たちが遭遇した子どもの事例 は、大人の患者さんの相談を通じてわかったものがほとんど。病院に来て相談室にたどり着くのは氷山の一角です」と前置きし、次のような事例を報告しまし た。
伯父と二人暮らしの五歳児…母親が一八歳の時に産み、家を出ている。発達に遅れがあり、栄養面でも不安。
父親が脳梗塞で倒れた一家…五 人が母の皿洗いと中卒で派遣になった長男の稼ぎで生活。福祉事務所は相手にしてくれず、生活費をサラ金から借金。妹の給食費は未納、父は治療を中断し二度 目の梗塞を発症。次男は不登校になったまま中学卒業に。相談室の援助で一家は生保を受けるようになったが、長男は「弟だけは高校へ」と望んでいる。
母親と二人の子どもの家庭…一八歳の長男と小学生の娘。生活が困窮し、長男は不登校、母親は親子心中も考えていた。
 鮎澤さんは「子どもは学校を終えると社会とのつながりが切れ、私たちから見えなくなる。その間に問題は深刻化する。子どもの貧困は気づいた時に断ち切らなければ」と結びました。

 子どもと貧困の企画は全国で開かれていますが、長野は報告者のうち二人が民医連職員でした。
 主催者の一人で「反貧困ネットワーク信州」の和田洋子さん(司法書士)は、企画意図を「貧困問題にさまざまな分野の人ととりくむ中で、子どもの貧困が顕著に表れるのは教育と医療だと実感した。医療と貧困問題にはもっと光をあてるべき」と語りました。

予防接種にも経済格差

小児科

 日本外来小児科学会(8月末開催)のワークショップで、群馬・高崎中央病院の鈴木隆医師は、家庭の経済状況と予防接種の接種率との関連を報告し、注目されました。
 貧しい家庭では医療費の捻出も難しい場合があります。群馬県は昨年から「中学生までの医療費は外来も入院も支払いなし」という画期的な措置をとっていますが、任意の予防接種は自己負担があります。
 今年4~7月の4カ月で任意接種を受けた子を低所得者が多い国保と被用者保険で分けると、国保世帯は、高額の予防接種をほとんど受けていませんでした。
 同院で小児外来を受診している国保の子どもは17%。しかし、ヒブワクチン接種者の中で国保は14%、ムンプスワクチンは9%、1回1万円を超える肺炎球菌ワクチンに至っては2%でした()。

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(民医連新聞 第1487号 2010年11月1日)