フォーカス 私たちの実践 認知症患者の良眠への援助 山形・本間病院 タクティールケアを導入 安心感与え、昼夜逆転も改善
山形・本間病院の療養病棟では、認知症患者が昼夜逆転しないように、さまざまなとりくみを行っています。特にタクティールケアの実施で効果が出ています。第九回学術・運動交流集会で、佐藤崇規さん(介護福祉士)が発表しました。
当病棟では、医療依存度の高い患者や認知症患者の入院が増えています。認知症の高齢患者は昼夜逆転し、不眠にともなう転倒・転落の事故や問題行動も多く、ADL低下の原因にもなっています。
加齢とともに睡眠の質は低下していき、深い睡眠の時間が減少、体内の睡眠覚醒リズムにも障害が現れます。したがって若いころのようにぐっすりと眠ること は難しくなってきています。可能な限り睡眠薬に頼らず、日常のケアで良眠への援助ができないかと考え、いくつか実践しました。
当病棟では良眠のために三つのことを行っています。一つ目は離床をうながすための集団レクリエーションです。午前中にデイルームで、リハビリ棒を使った 軽い体操や嚥下体操、歌など三〇分のリハビリを行います。午後も離床して水分補給、音楽鑑賞、リハビリにとりくみます。二つ目は就寝前の湯たんぽによる温 罨(あん)法です。三つ目がタクティールケアです。
タクティールケアとは
タクティールケアとは、ラテン語の「触れる」という言葉が由来で、柔らかく撫でるように手で触れるケアです。患者の体に触れ続けると、興奮状態や不安感、痛みなどを緩和し、大事にされているという安心感も得られます。
効能は、コミュニケーション能力の向上、攻撃性や自虐性の減少、胃腸器官機能の改善、リラクゼーション・安眠・鎮痛の効果などがあります。
方法は、一日一回オリーブオイルを両手につけ、患者の手や足を包み込むように柔らかく撫で、マッサージを行います。所要時間は一五~二〇分程度です。
湯たんぽによる温罨法とタクティールケアの対象者は、転倒・転落があった患者、準夜帯になると大声を上げて不穏になる患者、一度トイレに起きると寝つけ ない患者、空腹感を訴え寝つけない患者、昼夜問わずナースコールを頻回に鳴らす患者としました。
その効果を適宜評価できるように、開始時のようすや患者の反応を経過記録に残します。現在までの対象患者は一六人です。
表情も穏やかに
タクティールケア開始時は、患者の手には力が入っていましたが、患者の訴えを傾聴しながらマッサー ジするにつれ力が抜けていき、しだいに表情も穏やかになりリラックスしているようでした。患者からは「またお願いしたい」「気持ちいい。ありがとう」とい う声も聞かれるようになりました。透析患者では、タクティールケア以前は、シャント肢側の手に触れただけで疼痛を訴えた人もいましたが、実施後は疼痛を訴 えることが少なくなりました。
また一般病棟から転科してきた時はせん妄状態だった患者が、生活リズムを取り戻して昼夜逆転も改善、眠剤に頼ることもなくなり良眠できるようになりました。
湯たんぽも確かに入眠をうながす効果は見られましたが、準備に時間を要することや火傷などの危険性、夏はできないなどが問題でした。その点タクティール ケアは準備に時間もかからず、オールシーズン実施できます。また、部位は手から始めたことで、お互いの顔を見ながらコミュニケーションがとれ、患者にも安 心感を与えたと思われます。
毎日のケアの積み重ねが重要
触れあいによる刺激は、人間にとって大切なコミュニケーションの一つだと考えられます。また睡眠は 単なる休息ではなく、成長ホルモンなどを分泌し、疲労回復や傷の修復にかかわり、免疫力を高めるなど、人体にかかせないさまざまな作用を全身に及ぼす時間 でもあると言われています。
今回のとりくみから、生活リズムをうまく維持し快適な睡眠を得るためには毎日のケアの積み重ねが重要であり、生活の中に取り入れて習慣化すると効果を上 げると思われました。今後もこれらから学んだことを活かし、それぞれの患者に合った介護ケアの提供に努めていきたいと思います。
(民医連新聞 第1481号 2010年8月2日)