“特養ホーム増設 まったなし” 当事者の苦労伝える 石川・待機者家族の会
特別養護老人ホームが足りず、入居待機者はついに全国で四二万人を超えました。石川県金沢市にある「特養ホーム入居待機者家族会」は、お互いに励まし合いながら、「一日も早く入居できるよう」施設整備を求めて行政に働きかけています。(小林裕子記者)
「共倒れ」が心配
特養・やすらぎホームの主任相談員・山口修治さんの案内で、待機者の家族・藤野綾子さん(79)を訪ねました。藤野さんは夫(82)を一人で介護しています。
夫が倒れてから八年、入所を申し込んでから二年が過ぎました。右マヒ・要介護3の夫は、糖尿病もあるためインシュリン注射を一日三回しなければなりませ ん。血糖を計り、足のケアや食事の世話、オムツ交換など、主治医が「脱帽」というほどの日々です。
しかし最近、綾子さんは疲れを感じています。夫がたびたび夜中にけいれんを起こすので寝不足ぎみです。神経がピリピリし、食欲がなく、膝に水が溜まるな ど体調不良で、つい夫に向かって「放ってどこかへ行っちゃう」など、むごい言葉が出てしまいます。夫の方が辛いのはわかっているのに…。「ごめんね」と綾 子さん。
週にデイサービス四回と訪問看護を一回、月に二泊三日のショートステイを二回、介護保険はフルに使っています。
「もう少しショートを増やしますか?」と言う山口さんに、「でもね、夫はショートで眠れないらしいの…」と断る綾子さん。それでも夫は妻を気づかって、 ショートステイに行くのです。綾子さんも携帯電話が鳴るたびにビクッとし、買い物も、時計と競争で大急ぎ、常に夫のことが頭から離れません。出費も大き く、貯金を取り崩す生活。山口さんは「共倒れ」を心配しています。
「首を絞めそうになった」
金沢市全体の特養待機者は一四六三人(重複なし)、現有の特養ホームは一七五二床です。
「会」の会長・林亀雄さんは話します。「特養に入るまでに家族が疲れ切ってしまう。せっぱ詰まってから申し込むので、待つのは一年くらいが限度だと思 う。しかし、早くて三年、重症者しか入れないのが実態」。林さんのお母さんは、八六歳から五年待ち、入所して一年半後に亡くなりました。「待機中に認知症 も要介護度もすすんで…、でも、ホームに入ったら表情がとても良くなってね」。
会員のアンケートでは「首を絞めそうになった」という家族が三人もいたそうです。「介護心中や孤独死は人ごとじゃない。全国で見ると週に一回くらいの割 合で、介護心中・殺人が起きている。その四割に執行猶予がつくのは、裁判所がやむを得ない殺人とみなしているのです。こんな異常を放置していてはいけな い」と林さん。
行政に求めた実態調査で
辞退理由の4割が「死亡」
八年前、山口さんたち「やすらぎホーム」の職員が、待機者とその家族に声をかけて懇談会を 開き、その苦労を聞いたのが「会」の出発点でした。山口さんらは、知り合いのケアマネなど介護関係者を通じて、県内にいる他施設の待機者・家族にも呼びか け、会員は一四〇人に。元待機者の家族も協力し、懇談会やアンケートを行って、行政に働きかけています。
毎年、金沢市に特養ホームの増設と介護保険を補う市独自の制度を求めてきました。二〇〇六年、懇談の場で市側が「入所を辞退する人もいる」と発言し、 「その理由を調べたのか?」と激しいやり取りになりました。そして金沢市が待機者の実態を調査したところ、待機者の三三%が自宅で介護を受け、辞退理由の トップが「死亡」で三八%とわかりました(二〇〇七年)。この事実に行政の態度も変化し、建設計画の前倒しが発表されました
「会」は今年一月、石川県に要望書を、県議会には請願書を提出。そこでは、「療養型病床の廃止・縮小がされたら介護難民が生まれることは必至。直ちに国 に撤回を求めてください」など、介護制度の改善を国に求めるよう促しました。請願は不採択になりましたが、県議会と市議会はその後、国に意見書を出しまし た。そこには、「会」が要望した内容がしっかり入っていました。
「当事者が声を上げることが大切」と林会長は言います。会員の切実な声…「リウマチがひどく手足が腫れて痛い。申し込んで三年が経つが、いつ入れるの か、入居できても自費になった部屋代や食事代が払えるか不安」。「母は九三歳。私が倒れたときが心配。もっと大変な方も多いのでしょうが…」。こうした待 機者の願いに応える基盤整備は、全国どこでも「待ったなし」です。参院選挙の争点にしていきましょう。
(民医連新聞 第1479号 2010年7月5日)
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