• メールロゴ
  • Xロゴ
  • フェイスブックロゴ
  • 動画ロゴ
  • TikTokロゴ

民医連新聞

民医連新聞

介護保険法2011年「改正」 =困難かかえた人に視点あて提案を= 林泰則さんに聞く(全日本民医連 事務局次長)

 介護保険がスタートして一〇年。制度の問題点が明白になってきました。来年には法「改正」が予定されています。抜本的な改善を実現するか、小手先の手直しや改悪を許すのか、これからの運動にかかっています。課題について全日本民医連事務局次長の林泰則さんに聞きました。

 「改正」する介護保険法の施行は二〇一二年四月で、このとき介護報酬と診療報酬の改定があります。政府は、医療と介護の提供体制を一体的に再編しようと動いており、今年一一月に介護保険法「改正」の基本方針をまとめ、来年国会に出す予定です(図1)。
 そのキーワードは「地域包括ケア」です。「最後まで在宅で」という構想で、医療と介護を一体的に提供し、入院は急性期に、介護も重症・重度に絞り、軽度者は切り捨てる方向です。
 「地域包括ケア」は二四時間、三六五日の医療・介護サービスを三〇分で駆けつけられる圏域内で提供し、地域で在宅をささえるというのです。しかし、それは「給付の抑制」を続けていては実現しません。

shinbun_1478_01

制度の問題点

 介護が「措置」だった時に比べ、公的介護サービスの利用は増えました。これは光の部分です。一方で、制度から排除されている困難層が存在し、それが拡大しています(図2)。低所得者、独居、老老介護、重度者の家族介護などです。その実態は民医連調査からも明らかです。
 第一に、低所得者が必要なサービスを受けていません。低所得者のほうが要介護になりやすいのに(図3)、サービスが届かないのです。
 第二に、要介護度認定の問題です。利用を抑制するしくみとして制度に組み込まれています。「予防給付」に移されたり、支給限度額のために必要なサービスが利用できない人が増えています。
 第三に、ローカルルールの存在です。「同居家族がいるからダメ」とか「散歩、受診の付き添いはダメ」など、自治体が勝手に決めています。国は一律の制限 を禁じる通達を出していますが、なかなか改まりません。居住地域によって、受けられるサービスが違うという状態が生じています。
 第四に、特養ホームの待機者が四二万人など、行き場のない高齢者が増えています。在宅で重度の待期者も多く家族介護され、入所できないまま半数が亡く なっています。とくに胃ろうや経管栄養の人の受け入れ先がなく、療養病床の削減の影響が出ています。基盤整備も大きな課題です。

shinbun_1478_02

shinbun_1478_03

給付抑制の転換を

 私たちが求める抜本改正は「給付の抑制」の転換が大前提です。それに利用料の廃止も必要です。 せめて非課税の利用料は免除しないと低所得者の利用がすすみません。認定制度も廃止または簡素化が必要です。利用限度額もローカルルールもなくし、施設の 基盤整備は国が責任をもって行うべきです。制度そのものを再設計させる抜本改正が必要だと思います。
 それには、現に介護保険制度で起きている実態を、私たちが明らかにし具体的な改善提案をしていくことが大切です。全日本民医連では一〇〇〇事例集(第二 弾)などを準備中です。九月をめどに政策提言もする予定です。各県連・事業所からも国や自治体に要求を出していきましょう。
 介護ウエーブで、不十分ながら介護報酬を引き上げ、新認定基準も修正させました。今度は法律の見直しという正念場です。改善を求める声を大にし、各界と共同し、よい法案をつくらせましょう。

介護を社会保障に

 この間、老人福祉制度が後退しています。介護保険制度とともに高齢者福祉制度の拡充も求め、「あるべき介護保障のあり方」を提起したいと思います。
 その際、私たちは「困難を抱えている人に焦点を当て、その人たちの状態を良くすることが制度全体を良くする」という立場で、運動していくことが必要だと考えています。
 また、介護保険財政は公費と保険料が各五〇%で、介護給付を増やせば保険料に跳ね返るしくみです。もう高齢者の保険料を引き上げるのは限界です。最近は 市町村から「公費を増やせ」という要求が出ています。しかし、公費を消費税増税で増やすのでは本末転倒です。
 民主党政権下でも特養ホームなどの予算枠は自民・公明政権時代から増えていません。民主党が賛成した二〇〇五年の介護保険法「改正」の中味は、軽度者の 切り捨てやホテルコストの導入などでした。参議院選挙が間近です。介護保険制度を悪くしたのは誰か、消費税増税の是非も判断する時だと思います。

民医連新聞 第1478号 2010年6月21日)