フォーカス 私たちの実践 歯科・医科・介護連携で医療安全 福岡・たたらリハビリテーション病院 写真や判定票で確認 義歯の紛失・誤飲をふせぐ
福岡のたたらリハビリテーション病院では、患者の義歯誤飲をきっかけに、口腔の医療安全について歯科が積極的にかかわり、医科・介護との連携をはかっています。その内容を、諸冨彰彦さん(歯科医師)が第九回学術・運動交流集会で発表しました。
当院では五年前から、外来診療だけでなく、リハビリ目的で入院している障害を持った患者さんや隣接する特養に入所する認知症の人の歯科治療、口腔機能維持、口腔衛生管理を行っています。
しかし、歯科の治療は他科のスタッフには理解しにくいためか、義歯の紛失などトラブルが生じ、とくに義歯の誤飲は五年間に二例発生しました。
【症例1】
八〇代男性。脳梗塞後遺症、嚥下障害、脳血管性認知症。当院に入院中、下の前歯三本の部分義歯を誤飲しました。家族が誤飲を疑って連絡したことで発見し、耳鼻科医師が内視鏡で摘出しました。
【症例2】
七〇代女性。認知症。特養に入所中に義歯を誤飲。突如、声が出せなくなったため、職員が不審に思い歯科に来院。咽頭部に誤飲した上顎の義歯を発見し、摘 出しました。その際、一カ月前に紛失していた下顎の義歯も誤飲を疑い、腹部単純撮影を行ったところ、下行結腸部にあるのを発見しました。しかし、内視鏡で は摘出できず、経過を見ていた一一カ月後、奇跡的に自然排出しました。
改善へ意見交換と提案
今回のような事故の発生には、さまざまなリスク要因が考えられます。
歯科サイドの反省点としては、(1)患者把握をスタッフ全員が統一した方法でやっていなかった、(2)他職種への情報提供が不足していた、(3)安全文化や意識が足りなかった、などです。
医科・介護サイドでは、(1)口腔内の知識や関心が不足していた、(2)義歯の管理について不徹底だった、などが考えられました。
そこでこれを改善するため、当院の安全委員会も交えて歯科と病棟・特養のスタッフが意見交換する場を設け、対策を講じました。
歯科からは、以下のことを提案しました。(1)入院時に口腔内のスクリーニングを行い、医科の電子カルテに義歯の写真を添付する。また、「義歯・歯牙誤 嚥リスク判定票」を導入し、口腔内の情報や義歯誤飲のリスク判定の情報がわかるようにする、(2)口腔ケアや義歯の着脱法の勉強会を開催し、全職員の知識 を向上させる、(3)義歯の所在を明確にするため、病院が義歯を預かった場合は預かり証を発行する。また、毎回の歯科治療の内容を文書で提供する、(4) 誤嚥しにくい義歯の設計など技術面の検討を始める、などです。
義歯管理のシステム
話し合いの結果、病棟では、全介助の患者や特別に誤飲リスクの高い患者について、その義歯を管理することになりました。特養では、入所者全員の義歯をデジタルカメラで撮影し、毎食後のケア時に、形態の変化や所在を把握することにしました。
ゆっくりですが、確実にスタッフ間に歯科についての知識が浸透し、患者本人や家族の満足につながっています。
これまで培ってきた関係をもとに、スタッフの会議を繰り返すことで、お互いの領域についての理解も深まり、連携も良くなったと感じています。一方、過度 の情報提供は相手の負担になり、混乱を招く恐れがあることもわかりました。今後も、適切な連携の形を考えていきたいと思います。
(民医連新聞 第1469号 2010年2月1日)