ホットラインで夜も安心 「夜間対応型」訪問介護─三重・宮川さくら苑 「いつでも呼んで」駆けつけます
「夜間対応型」の訪問介護事業所は全国的にまだ数少なく、百数十カ所です。三重県にある伊勢度会(わたらいかい)医療生協の「宮川さくら苑」では同事業を 開始して一年、要介護高齢者の在宅生活を二四時間ささえています。(小林裕子記者)
宮川さくら苑は、二〇床のショートステイと定員四五人のデイサービスに加え、同事業を実施する在宅総合サービスセンターです。
明るいデイルームの隣室・オペレーションセンターは夜になると緊張感に満ちます。利用者宅に設置した「ケアコール端末」とつながり、夕方六時から朝八時 まで「来てほしい」と連絡があると、自宅待機のヘルパーが利用者宅に直行します。ボタン一つで話ができ、利用者はいま二五人、訪問距離は最長片道二〇km 程度です。
風呂から出られない
「いま夜の出動は、毎日はありません。定期巡回の利用者がショートステイ中なので、必要時だけ。でも利用者には、いつでも呼べることが安心なのです」と楠田則子さん(相談員・介護主任)は言います。
老老介護の妻から「夫がお風呂から出られなくなった」「転んで立てなくなった」という連絡が。さびしくなって連絡してくる人もいれば、ケアマネや昼間担 当するヘルパーから「今夜、行ってくれへん?」と頼まれることも。「夜中に転んで、家にいるのが怖いと言うので、ここに連れてきたこともある」と楠田さ ん。
定期巡回はターミナルの人に多く利用されています。毎夜、鎮痛薬の使用を確かめ、脚をマッサージしながら入眠まで三〇分ほど付き添ったりします。
北岡良さん(介護福祉士・主任)は朝四時、がん末期だった利用者の「イチゴのかき氷が食べたい」という要望で訪問しました。亡くなる二日前で、「最期の願いだったのかも」と振り返ります。
この事業を利用して、二年ぶりに施設から自宅へ帰った人もいます。要介護5で全介助ですが、嬉しそうに「家の匂いは違うでな。私はここで死にたい」と言 いました。ショートステイとデイサービス、訪問介護などを利用して過ごしています。
伊勢市の補助事業活用
なぜこの事業を? ショートステイから帰宅した晩に亡くなった利用者がいました。突然の脳梗塞 でしたが、職員は「一生懸命に介護したのに」とショックでした。「何とかしたい」と考えていた時に、伊勢市が国の助成金で夜間対応型訪問介護事業者を募集 していることをキャッチ。職員みんなで「どうしたら可能か」を話し合い、他施設を見学し、理事会に提案、賛同を得ました。
パソコンなどの初期費用は補助金二五〇〇万円で整備しました。各利用者宅に設置する端末機は工事を含め約九万円で、事業者が負担し、介護報酬月一万円 (利用者負担は一〇〇〇円)でまかないます。見学に行った津市の事業所では「採算は困難」と断言されました。
藤井新一事務長は「経営的に苦しいのは覚悟の上で、組合員の期待や老老介護が多い地域の状況に応えたかった。補助金があったから助かった」と話します。
介護保険の改善を
介護スタッフ二四人の勤務表は夜勤、オペレーター、訪問(待機含む)を組み、パズルのようで す。「みな利用者のためにがんばっています」と楠田さん。「夜の不安をなくすと家で生活できる期間を延ばせる。介護状態を悪化させないために役立つ事業」 と強調します。問題は利用限度額です。要介護1や2の人が利用する場合、限度額を超え、他のサービスを減らすことになりかねません。経済的に苦しい利用者 もいます。
「限度額を広げ、利用者負担を軽減し、介護職員の生活保障を。事業の初期加算も不可欠」。職員たちは介護保険制度の改善を切に求めています。
(民医連新聞 第1466号 2009年12月21日)