保健で良い歯科医療を 10・25 宣伝・決起集会 “口の健康”だれにでも 患者と歯科従事者の共同で
一〇月二五日、「入れ歯が危ない 保険で良い医療を 10・25決起集会」が東京晴海で開かれました。
主催は、全日本民医連、全国保険医団体連合会(保団連)、日生協医療部会、「保険で良い歯科医療を」全国連絡会の四団体でつくる実行委員会。四一八人が参加しました。(村田洋一記者)
銀座で署名宣伝
「いつでも、どこでも、だれもが、お金の心配のない『保険で良い歯科医療』の実現を求める請願署名にご協力下さい」と、集会の前、全国から集まった歯科医師・衛生士・技工士ら約二三〇人が、小雨の降る銀座で署名・宣伝を行いました。
「お金がないと歯が治せない。このままでは日本の歯科医療は崩壊する」「すべての入れ歯を保険で」など、昼過ぎまでの約一時間、三〇人の弁士がハンドマ イクで熱く訴えました。途中から雨も上がり、ビラやティッシュを受け取る人も増え、一七二筆の署名が集まりました。
歯科医療を守る
集会では全日本民医連の江原雅博歯科部長が開会あいさつし、保団連歯科代表の宇佐美宏さんが基調報告しました。
「保険で良い歯科医療を」全国連絡会が実施した患者アンケートでは「健康保険のきかない歯科治療」に七割が反対。「海外からの入れ歯輸入」にも八割が反対でした。
歯科医療従事者も厳しい状況です。歯科医師は「五人に一人が年収三百万円」で、「ワーキングプア歯科医」という言葉すらあります。入れ歯の輸入が技工 士・所の労働・経営環境の悪化に追い討ちをかけ、衛生士の役割と技術も診療報酬上正当に評価されていません。歯科従事者の中に雇用不安が生まれています。
宇佐美さんは「新政権の歯科医療政策は検討の域を出ず、私たちの側からの政策提言と運動が今こそ必要」と強調しました。「保険で良い医療を求める」請願 署名は約二〇万筆に到達し、全地方議会の二二%で、意見書が採択され、二年前の運動と比べ、大きな変化が生まれています。
崩壊する口腔内
「歯科医療の現状と打開の道」について六人がリレートークしました。
全日本民医連歯科部の庄司聖さん(島根・塩冶歯科診療所)は「口から見える格差と貧困――歯科酷書(こくしょ)―」について報告。民医連の歯科事業所から八五事例を集めました。
酷書では三二例を紹介しています。厳しい労働環境や長時間労働で受診することが困難だった例や、派遣切り・リストラ、低賃金などで経済的に受診が困難 だった事例。無保険、短期証の子ども・高齢者もいます。「お金が高くて払えない」という事例がほとんどです。
庄司さんは「口の中が『崩壊』というような状態になるまで放置し、痛みを我慢できず受診したような事例が、わずか三カ月で八五事例も集まったことは驚き でした」と話しました。患者が少ないのではなく、受診したくてもかかれない人たちが増える中で、「歯科医師は過剰」というのは医療費削減の一環として「恣 意(しい)的につくられた情報」ではないかと訴えました。子どもや若者におよぶ過酷な現実を知り、少しでも状況を改善させるために何らかのアクションを起 こそうと提起しました。
入れ歯輸入問題
歯科技工士の脇本征男さんが「歯科技工の海外委託訴訟」について訴えました。
日本歯科技工士会の調査によれば、二〇代の歯科技工士の八割が技工士の職につかず、〇九年の技工士学校の入学者は、〇八年度の定員充足率六二%をも下 回っています。このままでは将来日本に技工士はいなくなってしまいます。この根本原因は、診療報酬で義歯の製作技術料が正当に評価されていないためです。 海外からの入れ歯輸入は安全性や品質に問題があるにもかかわらず政府が事実上容認しています。脇本さんは、輸入の禁止と、技工士への損害賠償を求め、訴訟 をしています。
歯科医師先頭に
愛知の歯科医・大藪憲治さんは署名活動を報告しました。
「愛知では四五〇〇〇筆の署名が集まった。署名活動をやると患者が増える。郵送した署名を持って数年前の患者さんまで来てくれた。いつでも、どこでも、 安心して歯科医療をと奮闘する歯科医が患者国民から見放されるはずはない」と発言しました。宮城の歯科医・杉目博厚さんは県内の市町村議会での意見書採択 運動について報告。とくに県議会では全会一致で採択されました。兵庫の歯科医・吉岡正雄さんは全国で五番目の連絡会結成を報告しました。
口から見える格差と貧困
全日本民医連が「歯科酷書(こくしょ)」
(12月中旬、各歯科事業所に配布予定)
全日本民医連歯科部長・江原雅博さんの話
格差と貧困が広がり、深刻化しています。経済的事情による受診手控えなど影響が大です。歯科の方が医科よりも生命の危機に直結しないからでしょう。しか し受診できない状況が続くと口腔内の健康が急激に失われ、いずれ全身に影響します。
「なぜこんな状態になるまで来なかったのか」と問いたくなるほどの事例が集まりましたが、これは氷山の一角で、水面下では深刻な事態が進行していると思われます。
私たちはその社会的背景を探り、問題点を明確にするために「歯科酷書」をまとめました。経済格差や貧困と口腔内の健康について、あらためてとらえ直し、社会にも考えてもらう契機にしたいと願っています。
事例(1)
「不安定雇用で路上生活を余儀なくされ、20代で口腔内全体が崩壊した事例」
中卒で建設業での仕事中に背骨にひびが入り、勤務継続困難で退職。労災申請もせず、現在も腰痛がある。20歳で仕事を探して東京に出る。日雇い仕事で寮 生活するが、仕事がなくなると寮を追い出され路上生活へ。自立支援センターに入居して仕事を探すことになったが、採用面接時に見た目が悪くて困るので歯科 治療を希望。口腔内はほぼ全歯牙が根っこだけ残っているような状態。
事例(2)
「経済的事情から放置して治療せず、エナメル上皮腫が悪化した事例」
40代男性、無職、友人宅に間借り生活。下顎左側に「こぶし大」の腫脹(エナメル上皮腫)があり、重度う蝕も多数で、そのうちの7~8本は抜歯が必要な ほどの状態。下顎が大きく腫れてアルバイトの仕事ができなくなり、経済的な厳しさから受診もできずに3~4年間放置していた。腫れがますます大きくなって たまりかね、今回の受診となった。手持ちの現金が2000円ほどで貯蓄もなく、生活保護を申請した。
事例(3)
「親が体調不良、受診が遅れてう蝕歯多数となってしまった事例」
10代、一人親家庭、3人兄弟の末子、生活保護を受けている。はえて間もない第1大臼歯4本すべてが重度のう蝕、加えて大量の歯垢付着と多数のう蝕が見 られる。母親は喘息で体調悪く、子どもを歯科へ受診させることができなかったようす。本人が夜に歯の痛みでもがき苦しんでいたためにやっと来院するも、そ の後中断を繰り返している。
(民医連新聞 第1465号 2009年12月7日)