肺がん 13%にアスベストの影響 民医連研究班 八九三症例の調査 職歴の聞きとりは必須
「肺がん患者のおよそ一三%にアスベストの影響が見られた」。民医連の「アスベストに関する多施設調査研究班(一五人/代表・長 谷川吉則医師、事務局長・田村昭彦医師)」が八九三症例(調査は全九六九例)を調べた結果です。研究班の医師たちは二年かけて、北海道や福岡など六カ所 で、現地の医師たちとともに胸部レントゲン・CT写真の読影会を実施して明らかにしました。この成果を学会などで発表するとともに、アスベスト所見の診断 法を伝える「テキスト」づくりに生かす予定です。(小林裕子記者)
この調査は、「原発性肺がんと診断された患者の中に、アスベストの影響を受けている人がどの程 度いるか」を調べたもの。過去の胸部レントゲン・CT写真を再読影し、詳しく調べました。CTでの所見率(一二・九%)はレントゲンの所見率(五・六%) の約二倍でした。所見のあった一一五人の中には、過去にアスベストを扱う職歴のある人、アスベストに触れる環境にいた人が含まれ、この調査の後に労災申請 につながった患者もいます。
アスベストは、喫煙と相乗的に肺がんのリスクを高めます(図)。職歴や環境、喫煙の有無などを医療者側が聞き取ることの大切さを示す貴重な研究になりました。
海外でも注目
一〇月一〇~一一日、研究班の医師が集まり、まとめの会議を開きました。指導者として全読影会 に関わった菅沼成文教授(高知大学)も参加。教授はこの研究成果を海外の学会で発表し、「希少な研究で関心を引いた。日本の現状を示すデータになった」と 話しました。医師たちは、詳しい解析結果について意見交換し、二年間の活動の感想も出し合いました。
この日は、レントゲン・CT写真を持ち寄り、読影のおさらい作業もしました。特徴的なアスベスト所見を選り出し、日常診療に役立つ資料・教材を作るため です。アスベスト被害は今後さらに顕著になると予測され、「多くの医師たちに診断の技術を伝えたい」のです。
微細な変化を読む
シャーカステンに顔を寄せ合って、じっと食い入るように見つめる医師たち。微細なものを読み取 る作業。「確定症例の典型ですね」「教材的な症例ですね」。次つぎに写真を替え「これは迷いやすい症例です」「悩むのはこの部分」「これも教材にしましょ う」など意見を交わします。
アスベストばく露の特徴であるプラーク(胸膜肥厚斑)を探し出し、その外形や個数、厚さ、写真の陰影の濃度、発生場所が胸膜の壁側(へきそく)か臓側 (ぞうそく)か、などを逐一確認する、根気のいる仕事です。要所ごとに菅沼教授が着眼点を示します。「いいですか。パッと見て決めるのでなく、論理的に考 えて判定しているのです」。医師たちの真剣な眼差しが集中します。
菅沼教授は「この研究で使ったアスベスト所見のとり方は世界の専門家の標準」と話します。それを民医連の医師たちに伝授し、「納得してもらえたので喜ん でいる。見る目が育っていると思うし、いろいろな場面で使える」と満足そうでした。
医師集団の力
六回にわたって行った読影会には、のべ一二二人の医師が参加しました。集団的に意見交換したこと、二九施設の協力で集まった八九三という数も「力」に。
伊志嶺篤医師(北海道・中央病院)は「アスベストを強く意識するようになった。読影会に参加した研修医や内科、外科の医師から相談を受けることも増え た」。小池昭夫医師(埼玉協同病院)は「一人のアイデアではなく、いろいろな意見をすり合わせた。他科の医師の指摘も受け、知恵を出し合って診断した」。 船越正信医師(尼崎医療生協)は「微妙な症例も、数の裏付けで意味がはっきりした。労災の交渉でも役立つ。ディスカッションする自信ができた」と話しま す。
患者救済につなげよう
研究班代表の長谷川医師は「この成果を生かし患者の救済につなげたい。それには、肺がんなどアスベ スト関連疾患の患者を診たら、職業歴や住環境などを必ず聞き取ることが大切」と強調します。田村医師は「協力施設にお礼を伝え、同時に、職業性の患者の場 合の労災申請がその後できているかなども調べていきたい」と次の課題を語りました。
(民医連新聞 第1464号 2009年11月16日)