“9条変えない”国民の意思が 米国を、世界史を変える 学術運動交流集会 記念講演 品川正治(まさじ)さん
品川正治さんが記念講演し、戦争の重い体験をもとに憲法九条のもとでの「人間の目で見た経済への転換」の展望を語りました。
戦争を人間の目で見る
戦場で重傷を負い、脚 には今も弾が残る。瀕死の戦友が「品川、品川」と呼ぶ声が耳から離れず、「自分だけが生き残った」というトラウマで60年近く体験を話せなかった。戦地か ら戻る船の中で日本国憲法の草案を読み、9条のところで部隊の全員が泣いた。「これで生きていける。死んだ友人も浮かばれる」と…。 【プロフィール】 |
解釈改憲で有事法制や特別措置法がつくられ、ソマリアにまで自衛艦が行っています。憲法九条二項の旗はボロボロです。しかし国民は旗竿(はたざお)を手放していない。日本は他国にはない世界で一番の宝を持っているのです。
世界中の憲法が戦争を「国家の目」でしか見ない中、日本国憲法は国民が六三年間守ってきたために、戦争を「人間の目で見る」世界でただ一つの憲法になり ました。ミサイルや爆弾を使わない戦争などなく、罪もない母も子も死ぬ戦争は、人間の目で見れば絶対に許されないものです。国連がやれと言っても人を殺せ るものではない。その意味で日本の憲法は世界で極めて特異なものです。
戦争は天災や地変ではない。戦争を起こすのも人間なら、止(と)めるのも人間。戦争を起こす側か止める側か、これが私の座標軸です。
「9条を変えない」の一言で
鳩山首相が世界に向かって、核廃絶や国際貢献など、オバマと歩調を合わせた形で言っています。
「東アジア共同体」についても言っています。しかし、将来九条を変えて「戦争するかも知れない」という立場での発言なら、かつての日本がアジアの盟主に なろうとして戦争の口実にした「大東亜共栄圏」とどう違うのか、となってしまいます。
逆に「日本は九条を放さない」と一言、言ってしまえば、全く違った印象を世界に与えるわけです。そうでなければ、いろいろ言っても何の意味もありません。
「九条をもつ日本」をはっきり表に出していくのがこれからの日本のいき方だと思うのです。
金融危機が示したもの
もう一つ、経済人として頭から離れない問題があります。戦争を人間の目で見た憲法を持つ日本 が、なぜ人間の目で経済を見ないのか? 人間の目どころか、金融資本の目で見ている。国際会議では、やっと資本の横暴に枠をはめよう、と国家の目で見るよ うになった。ならば日本はもう一歩すすめ、人間の目で見た経済を実現したい。
〇八年九月一五日、リーマンブラザースが潰れました。言葉は悪いが私は神風が吹いたと思うのです。五年遅かったら日本の経済はめちゃくちゃになっていました。
米国は金融資本に支配されています。「日本が米国と価値観を共有している」という考えに財界、政界、マスコミがとらわれていますが、それは違う。米国で 大量の資金を動かして莫大な利益をあげるファンド、その上位五〇社のファンドマネージャーの平均報酬は、労働者の平均給与の一万九〇〇〇倍です。上位五〇 〇社の経営責任者の給与は普通の労働者の平均給与の三四〇倍です。
日本にはそんな会社はありません。日産が例外ですが、ゴーンさん一人が超高給だからです。日本の保険業は平和産業です。ところが米国のAIGは、戦争保 険を引き受けている会社です。軍産複合体の中心に座っているのです。
人間の目で経済を見る
竹中平蔵氏は「正統の米国資本主義に続け」と言い、規制緩和や派遣労働の自由化をすすめました。もしリーマンが潰れず、米国型資本主義の問題に国民が気づかなかったら、その方向に行ったはずです。しかし米国型に変えることが正しいとはもう言えません。
米国の超過消費に頼ることもできず、日本は、本気で経済構造を変えざるを得ないのです。象徴的だったのは年越し派遣村です。官庁街のど真ん中で、日本の 格差・貧困・雇用の問題が表に出たわけです。日本の経営人も変わらざるを得ない。「日本では、社会的に孤立した企業は成り立たない」という発言がどこの役 員会でも出るようになっています。不況のトンネルは長いけれど、その耐え方によって各国なりの資本主義が表れるだろうと思います。私は、人間の目で経済を 見ることが夢ではないと思えるようになりました。
日本の主権者の世界史的責任
日本が「絶対九条を変えない」と言ってしまえば、米国は世界戦略を変えなくてはならない。それ は世界史が変わることです。幸い、米国自身がチェンジを言い出しました。ここは一番、国民が「九条は絶対変えない」と言えば世界史が変わる。日本の歴史始 まって以来の世界史的責任を、主権者の一人としてみんなが負っているのです。国の行方の最大の決め手は主権者の意向です。それを自覚するならば、はっきり と世界史が変わります。このことを私は声を大にして叫びたいと思います。
(民医連新聞 第1463号 2009年11月2日)