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民医連新聞

民医連新聞

夜中くり返す発作 生活の苦労… 「せめて医療費を無料に」 “公害は終わっていない”

ぜん息実態調査

あおぞらプロジェクト大阪

 大阪民医連も加わる「あおぞらプロジェクト大阪」は九月九日、「ぜん息被害実 態調査」の報告会を行い、約八〇人が参加しました。調査から、大気汚染による公害患者がいまも発生し、「認定」「救済」が受けられず、身体の辛さ、経済的 な困難をかかえ、「せめて医療費だけでも無料に」と望んでいることが明らかになりました。(小林裕子記者)

親子二代でぜん息に苦しむ

 参加者の半数以上がぜん息などの患者。未認定の人も多数いました。池永末子さん(65)がその苦しみを訴えました。池永さんが約四〇年間住んでいる西淀川区は、一九八八年に公害指定地域が解除されましたが、空気の汚染は続いています。
 *池永末子さんの話
 長女が三歳のとき、ぜん息になりました。夜中にヒューヒューゼイゼイ喉を鳴らして発作が起きます。一晩中苦しんでいます。私たちは必死で看病しました。 その娘が結婚したら、私のぜん息がだんだん悪くなりました。いつも咳が出て息が苦しく、発作が起きます。ひどいときは寒い夜や雨の中、何度も病院に行き点 滴をします。季節の変わり目や朝方は身体がだるく、横になっても眠れません。汗をびっしょりかきます。私は、自分がぜん息になって、初めて娘の辛さがわか りました。母子二代でぜん息に苦しんでいます。発作が起きると、早く楽になりたいので一日三回の薬をつい五~六回と使ってしまいます。この二〇年は発作・ 入院・治療の繰り返しです。
 点滴や注射のときは治療費が高いため、未認定患者は病院にかかるのを控えなくてはなりません。私のように、公害指定地域が解除された後に、ぜん息がひど くなって苦しんでいるお年寄りや子どもがたくさんいます。認定されず、病院に行けず、寝たきりの患者もいます。私たちは命をかけても、国や行政に働きかけ て救済制度をつくりたい。ともに立ち上がって力を貸してください。

せめて医療費の助成を

 福島区に住む川勝恭子さん(74)も訴えました。「子どもがぜん息。子どもの世話にかかり切りで自分の身体に構うことができず、手が離れたころ自分の病状が悪化した」「発作がひどく手足がしびれ、チアノーゼも起きる」「医療費が重い」…
 空気が汚いと知っていても簡単に引っ越せません。高齢になり、独り暮らしでは、夜中の発作がとても心配。経済的にも不安です。せめて東京都のような「医療費の助成を」は切実な願いです。
 金谷邦夫医師(ヘルスコープおおさか理事長)が発言しました。
「ぜん息の医療がすすんだ現代で、発作のコントロールができていない患者がいる。その背景に貧困があることを、今回の調査が端的に表したと思う。病気が貧 困につながり、貧困が病気を悪化させる。ぜん息はコントロールすれば、社会復帰できるのに…」。悪化するまでガマンするのでなく、医療費を心配せず、安心 してかかれる助成制度の必要を説きました。

安心して暮らせる社会へ

 調査内容は、金谷医師など大阪民医連の呼吸器系の医師などが集団で検討しました。
 「実態がこれほど明確に出るとは、正直いって驚いた。また、未認定の公害患者が自身の言葉で被害を語ってくれた」と言うプロジェクト事務局長の中村毅さ ん。これを起点に、国、大阪府、道路公団と自動車メーカーに「大気汚染の規制と救済制度」を要求していく方針です。「東京・川崎に続き大阪で、そして各地 に広げ、最終的に国レベルの制度をつくりたい」。
 アンケートで、医療費助成制度は「ぜひつくってほしい」が八五%。そして運動が起きた場合「参加する」「条件が揃えば参加」という回答が六五%でした。 これは公害患者会やプロジェクトを勇気づけました。中村さんは「調査の中でこういう人たちを知ったのは、今後の運動にとって宝だ」と話します。
 公害患者団体、医療機関、民主団体、労働組合、弁護士、教師なども加わるあおぞらプロジェクト大阪。「人権」の視点から、「病気などハンディをもった人 でも安心して働け、事業が営める保障制度を、そして生きがいをもって暮らせる社会へ」、運動する決意を固めています。

患者の発生は続いている

 実態調査は〇八年一二月から七カ月かけ、二段階で実施しました。
 第一段階では、簡単な「アンケート付きチラシ」二五万枚を配布。幹線道路沿いの行政区では全戸配布し、駅頭や交差点などでも呼びかけました。回答は三三 六人から寄せられ、その六割以上に呼吸器系の症状があり、四人に一人は激しい発作も訴えていました。旧公害指定地域の住人からの回答が九五%以上。「ひと こと欄」には一一〇人が、病気の苦しみと辛さ、医療費の重さを訴えていました。
 第二段階は、アンケートで調査に「協力する」と答えた人への詳細な被害実態調査です。未救済患者は二三〇人で、その回答から次のことがわかりました。
 一つは、「公害は終わった」として公害指定が外された地域で、いまも患者が発生し(図1)、工場排ガスは減っても自動車排ガスが増えたためです。むしろ大阪府全域に広がっています。
 八八年以前に発症した人でも、「子どもの結婚にさしつかえる」「働き続けの生活で受診できなかった」などの理由で認定を受けていない人もいました。
 また、ぜん息は全年齢で発症し、慢性気管支炎、肺気腫などは中高年で発症していますが、自治体のほとんどが公害医療費助成を一五~一六歳で打ち切っているため、救済の対象外になっています。

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病気と生活苦の悪循環

 二つ目は、公害患者が身体的な苦痛のほか生活の困難をかかえていることです(図2)。
 「発作で仕事を休む」「通院のため中途退席する」などが多いため、居づらくなる、あるいは退職を迫られ、いったん辞めると正規職員になれず非正規やパー ト就労に。休めば即収入が減ります。「病気が原因で仕事や商売に支障をきたした」は四五%、「収入が減った」という回答が二六%もありました(図3)。
 医療費が月一万円を超え、通院交通費が五〇〇〇円を超える人もいます。受診回数や入院日数を減らした人が三割近くあり、「充分な治療を受けていない」と感じている人も二割いました。
 多くの患者が、もし病気でなかったら「もっとバリバリ働く」「スポーツや旅行をしてみたい」と回答。しかし現実は厳しく、「生きていてもしかたない」「早く死にたい」など悲観的な声もありました。

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(民医連新聞 第1462号 2009年10月19日)