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民医連新聞

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被爆医師の生き方 民医連で教えられた 第11回被ばく問題交流集会で

  九月一二、一三の両日、大阪市内で「第一一回被ばく問題交流集会」が行われました。集会では、被爆医師として、地元大阪市で長年にわたって被爆者医療にと りくんできた小林栄一医師(此花診療所長・八三歳)が、「被爆医師として後輩に引き継ぎたいこと」と題して講演しました。(丸山聡子記者)

小林栄一さん(医師)

1925年、韓国・釜山生まれ。長崎医科大学附属医専在学中に被爆。東大附属医専に転校し1949年卒業。国立病院を経て1960年から此花診療所(大阪民医連)の所長。近著に『被爆者医療ひとすじに』など。

 私は韓国で生まれました。引揚者であり、被爆者でもあります。
 一九六〇年に大阪民医連に入りましたが、民医連について何も知りませんでした。そこには田尻俊一郎先生がいて、労災・職業病にとりくんでいました。田尻 先生は原爆が投下されたとき、長崎大付属医専の一年生で、私は三年生。二年後輩でした。田尻先生から指導を受けました。
 第一〇回原水爆禁止世界大会が京都・大阪であったとき、事務長に「先生、被爆者であれば、何か運動しなければいけないんじゃないでしょうか」と言われ、 被爆者医療にとりくみ始めたわけです。「被爆医師」として生きる道を、民医連が与えてくれました。被爆者の生きる道、医師として生きる道を、民医連で教え られました。
 広島・長崎に原爆が落とされたことさえ知らない子どもや大人がいます。原爆症認定集団訴訟の近畿の法廷で広島・長崎のビデオが上映されたあと、被爆者が 「音もにおいもしない。体験した者しかわからない」と言いました。簡単には表現できません。
 跡継ぎをしていただくみなさん方に、広島・長崎で起こった惨状を知ってほしい。被爆の写真、絵、手記に触れ、被爆者の話を聞く活動をやっていただきたい。

700メートルで被爆して

 私は爆心地から七〇〇メートルの近距離にあった長崎医科大学附属病院の外来本館で被爆しまし た。ピカッと光った瞬間に机の下に潜り込み、怪我も火傷もしませんでした。下の街では、瓦やトタン屋根がゴウゴウと炎を吹き上げていました。「助けてく れ」「水をくれ」と、病院に向かって人びとが坂を登ってきました。
 午後三時ごろ、同級生と二人で裏の金比羅山へ上がり、県の本部に現状を報告し、乾パンを持って病院へ戻りました。夜は永井隆先生を囲み、カボチャやサツ マイモを鉄兜(かぶと)で炊いて食べました。街は燃え続けていました。二日目には、金比羅山の尾根に横たわる負傷者に、握り飯を配って歩きました。「がん ばれよ、後で助けに来るからな」と言いましたが、結局、そのまま放置してしまいました。三日目に五キロほど離れた道尾に第一外科の教授が救護所を開いたの で私も行って、米軍が上陸してくる一七日まで負傷者の手当をしました。負傷者は次つぎと死に、横の空き地で焼きました。
 この体験を、小中学校に話しに行っています。話だけではわからないと思い、写真集を持って行くようにしました。写真を見た子どもたちは、目の光り方が違 いました。写真などから被爆の実相に触れ、被爆地の惨状、被爆者の苦しみを理解することが大事です。
 被爆者の組織として、各都道府県に「被団協」があります。原爆症認定集団訴訟に立ち上がりました。その医師団として、私と兵庫県の郷地先生、京都の三宅 先生などが中心となり、意見書を書きました。被爆者の会と連絡を密にとらないと運動は発展しません。

被爆者の健康を守る

 一九六八年に特別医療措置法ができて、大阪府内のあちこちに説明に行き、健康管理手当の申請をすすめました。年五〇〇人以上の診断書を書いたこともあります。
 毎年、被爆者健診も実施しています。被爆者の定期健康診断の受診率はだんだん悪くなっています。がん検診も受診率が悪い。被爆者は継続的な健康管理が大 切なので、心配しています。民医連の各事業所が、被爆者の健康診断をやれるようになってほしい。
 被爆者の死亡者数は毎年約八〇〇〇人。二世、三世の健診も大切になってきます。二世健診の際、「お父さんやお母さんが被爆した距離は?」と尋ねると、ほ とんどの人が知りません。ある患者さんに同じ質問をしたら、ついてきた親が怒りました。「子どもに被爆体験を話せるか」と。その親の気持ちは理解できます が、けれども本当は、そうではいけないのです。親が被爆の体験を子どもに伝えていかなければなりません。
 被爆者が先頭に立って世界を回り、核兵器廃絶の声と運動を広げています。被爆者は高齢です。私も八三歳。通勤に二時間かかりますが、おかげで足が達者で す。いつまで続くか。被爆者の思いを、引き継いでほしいと思います。

(民医連新聞 第1461号 2009年10月5日)

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