2010年診療報酬改定 10%以上引き上げ求める 他病院の要求も携え厚生労働省交渉 福岡民医連 療養病床は矛盾だらけ
診療報酬は二〇〇八年まで四回連続のマイナスで、二〇〇一年に比べ合計七・七三%も引き下げられました。崩壊寸前の医療供給体制の立て直しをかけて、二〇 一〇年の改定では大幅な引き上げが切望されています。全日本民医連は九月、第一次分の「診療報酬改定に関する要望書」をまとめ厚生労働大臣に提出しまし た。二次分を集約し交渉も行う予定です。福岡民医連では九月一四日、県内の民医連外の医療機関の要望も携え、厚労省と話し合いました。とくに療養型病床に ついて、資料を示し報酬引き上げを求めました。(小林裕子記者)
病院持ち出し1床35万円
山田智医師(大牟田市・みさき病院長)は「報酬に算定できない病院の持ち出し額が、療養型病床 分(回復期リハを含む九六床)で、〇八年は三四一〇万円にもなった」と切り出しました。〇六年からみて、その額は一・四倍に。一床当たりの持ち出し額は年 間三五万円を超えます。高額な薬剤料・検査料が包括化された報酬でまかないきれないのです。認知症の進行を止めるアリセプト(一錠‥薬価三〇〇円)や抗ガ ン剤、連携病院に情報提供するために必要なレントゲンやCT検査などの費用。山田医師は「医療や安全の面からも、地域の病院との信頼関係からも不可欠。こ れらを別算定にしてほしい」と強く要望しました。
同院には、急性期の病院からがんの患者が「認知症があって対応できない」と紹介されてきます。がん末期で麻薬を使用している患者もいます。緩和ケア病棟も認知症だと受け入れが困難なのです。
民医連以外の病院から託された文書にも、同様の意見があります。
大牟田市のA病院は「DPC病院が患者の早期退院をすすめ、療養病棟が受け皿として期待されるが、治療薬が高いリウマチ患者などは受け入れにくい」と書いています。
マンパワーいる認知症の看護
認知症の患者にはきめ細かな対応が必要で、マンパワーが不可欠。低い報酬では確保できません。
同県連・慢性期病床・施設小委員会委員長の加藤はるかさん(看護師)は、県連七病院の患者九四一人について調べた医療処置を示しました。経管栄養三四%、気管切開一二%、吸痰三三%、オムツ交換七二%…。
「休憩時間も取れず走り回っている。入院基本料を引き上げなければ人手が増やせない。頻回の吸痰や胃ろう、重度の認知症など、介護施設も一般病床も引き 受けられない、医療区分2・3の患者が増加している。療養病床の現状に、報酬や制度が見合わない」と訴えました。
認知症のある重症患者
みさき病院の小田原弘子さん(看護師長)も認知症の看護現場について発言しました。
「当院の医療療養四八床の全員が認知症。拘束ゼロにとりくんでいるが、転倒転落の予防に一五万円もする赤外線センサーを六台用意しても足りない。とくに 転院後まもない患者は二週間ほどは目が離せない。若年の患者や急性症状が激しい患者も、落ちつくまで職員は細心の注意を払う。採血も三人がかり、持続点滴 では付きっきりの場合もある。がん末期の人もいて、嚥下障害や肺炎を起こしやすい。命を守るためなので、職員はがんばっているが、マンパワーが足りない。 大牟田のように地域ぐるみで認知症にとりくんでいても、認知症の患者の行き場は限られている。認知症は別枠で保険点数を設定してほしい。重症の場合の報酬 もあれば、働きやすいと思う」。
介護職員の身体がもたない
健和会京町病院の須山幸恵さん(看護師長)は、介護職員処遇改善交付金や医療区分の矛盾を指摘しました。
「当院五九床のうち三六人が経管栄養。胃ろうの患者は施設でも在宅でも看られない。地域では要介護者の平均年齢が九〇歳という実態だ。
ていねいな看護・介護で状態が良くなると医療区分が下がって報酬が減ることもジレンマ。今回の介護職員への交付金は介護施設で働く介護士だけが対象で、 医療療養で働く介護士には付かない。身体がもたず、三〇歳を過ぎたら転職する介護士も多い」と改善を求めました。
記録が本来の仕事妨げる
戸畑健和病院の野上真利さん(副総師長)は、記録の多さについて改善を求めました。
「患者が家や施設に帰れるよう、チーム医療やカンファレンスをすすめているが、忙しい医師や他職種、家族との調整がたいへんな中で何度も開く。カンファ レンスも評価してほしい。また、記録を取ることに一日中追われ、患者に直接接する時間が奪われている。医師が足りないのは急性期も療養型も同じ。事務作業 補助加算を療養病棟でも取れるようにして。本来の仕事ができるようにしてほしい」。
在宅復帰率60%の矛盾
米の山病院回復期リハ病棟の甲斐田君子さん(看護師長)は、在宅復帰率六〇%で診療報酬に差が付くことを問題にしました。
「機能評価では回復期1を取るために、在宅復帰率を上げたいが、老老介護で家庭で看ることが難しくなっている。施設は何年も待たないと入れない。ケアプ ラン会議ではいつも苦労している。地域の事情もわかってほしい」。一律に数値で縛ることに、大きな矛盾があります。
厚労省の担当官は、要望に耳を傾け、質問し、「現場の声として受け止めた。認知症の人の後方ベッドが足りないという認識は同じ」とのべました。
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診療報酬は全体的に低く、さまざまな制約で抑えられています。抜本的な引き上げに向けて、全日本民医連は第二次分の要望を一〇月三〇日をめどに取りまとめています。
2010年診療報酬改定に対する要望書(要約) 全日本民医連 09年9月17日 基本要求
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(民医連新聞 第1461号 2009年10月5日)